【小さなビジネス応援】事業承継における多角化への処方箋を事例で説明してみた

事業承継

中小企業では事業承継と多角化がセットで話題になることが多いです。高齢化した創業者は市場の変化に疎くなってしまい、保守的な判断しかできなくなっていきます。それを不満に思う二代目社長が、自らの実績作りのためにも是非とも経営の多角化に乗り出したいと考えるのです。

これまで創業者が守ってきた堅い経営から、二代目社長によるチャレンジ経営への変化という訳です。ところがこれが多くの場合コケてしまう、失敗に終わるのです。この結果、過去の否定にやっきになっていた二代目社長は古株従業員の信頼も失ってしまい、会社の経営が悪い方、悪い方へと転回していく、というのがよく目にする「あるある」な話です。

これは何故なのか?こういった場合どうしたらよいのか?下記のケーススタディで考えてみましょう。



ケーススタディ

「A製菓」は和菓子の製造業を営んでいます。昭和41年創業、従業員30人の会社です。創業以来何度かの赤字転落は経験したものの、地元の地方スーパーを中心に販路をもっており、県内ではおなじみのお菓子メーカーです。創業者の堅実な経営のおかげで、ここ数年は黒字が続いています。ただし、大手スーパーやコンビニチェーンの発展にともない、価格競争が激しくなっており、売上・利益ともに成長は頭打ちの状況が続いています。

創業者は3年前に自分の子供(長男)を社長に昇格させて、自らは相談役に退いてします。二代目社長はこの成長頭打ち、価格競争激化、という状況を心配し、将来にわたって安定した経営を行うためには、多角化に打って出るしかない、と考えています

A製菓の主力商品である和菓子はテイストやパッケージなど古いままであり、昔からのお客様にとっては安心の定番ブランドとしてウケは良いのですが、若い世代にとっては「古臭い」「年寄り向け」というイメージが先行してなかなか選んでもらえない、という問題があります。

そこで、二代目社長は新たに洋菓子のテイストを入れたお洒落な(かわいい)新商品の開発を行い、また販路についても地方スーパーなどの地元小売店を経由しての販売から、首都圏のメジャーなデパートへの直営店の出店を行いたいと考えています。そうすることで話題作り、若い世代の取り込みが出来るからです。ただ、創業者である相談役はこのような多角化に反対の立場です。二代目社長と話し合っても結論は出ず、議論は平行線のままです。

もしあなたがこの二代目社長なら、このまま多角化を推進しますか?それとも別の方向を模索しますか?


分析

多角化経営の分析は、一般的にマトリクス型で考えます。つまり、横方向(水平方向)と縦方向(垂直方向)の二軸で分析します。

(1)水平方向。地続きの領土を広げるイメージ。自社の能力や強みを生かした新製品・新分野に打って出るパターンの多角化です。

(2)垂直方向。川上や川下へ広げるイメージ。製造のみから製造と販売へ、下請けから新製品開発へ、あるいはその逆など、自社のコントロールする範囲を拡張するパターンの多角化です。

この(1)と(2)のどちらが良いかはケース・バイ・ケースで異なりますが、重要なことは(1)と(2)を同時にやると失敗の確率が高くなる、ということです。(1)と(2)を分けて考えて、一つ一つ順番に進めたほうがリスクが低くなります。

それにも関わらず、(1)と(2)を同時にやろうとする例が多くなっています。今回のA製菓も同様です。(1)については既存の和菓子からお洒落な新商品への多角化、(2)については既存の販路から首都圏のデパートでの直営店への多角化、です。このふたつを同時にやろうとしています。このため、失敗の可能性が極めて高いです


処方箋

A製菓の場合、製菓の製造力、スーパーなど地元小売店を使った販路は強みと考えられますので、その強みを生かすことを考えます。A製菓に対する「経営処方箋」は次のようなものでしょう。

[1]  まずは、自社の製菓のノウハウや設備を使った高付加価値商品の開発を考えます。既存の商品だけでも黒字な訳ですから、この余力を使って新商品を開発します。新商品は必ずしも若い人にウケる要素ばかり気にする必要はなく、価格競争を避けて高い単価で効率の良い商品を投入します。

[2]  新商品は既存の販路でテスト販売して改良を重ねます。地元小売店はこれまでお付き合いや信頼をベースにして融通が効くはずですので、棚の位置やディスプレイなどの面で協力を要請します。

[3]  新商品が固まってきたら、やはり既存の販路を使って本格的に販売開始します。ここまでが第一段階です。

[4]  二代目社長の構想には首都圏のメジャーなデパートへの直営店の出店がありますが、これは慎重に行います。理由は、A製菓にとって未経験な店舗経営に打って出るのは危険ですし、首都圏のお客様にまったく認知されていないA製菓が突然出店してもスルーされるだけ、ということがあります。

首都圏には全国から様々な菓子店が出店してすでにレッドオーシャン化していますので、成功の確率はますます小さくなります。

[5]  したがって、首都圏への進出はいったん待って頂き、新しい販路開拓を検討することを薦めます。つまり、同じ垂直方向の多角化でも首都圏の店舗経営ではなく、別の販路の開拓に挑戦するのです。

別の販路とは、今の時代でいえばインターネット経由(EC)での販売がまず挙げられます。ECであれば、日本だけでなく全世界が市場になりますので、A製菓の既存の和菓子や育ててきた新商品をこれらの新しい市場に届けることができます。

とはいえ、ECも簡単な話ではありませんので、スモールスタートから初めて試行錯誤を重ねながら市場を広げていきます。もしこれが成功すれば、首都圏のお客様にも認知されるようになり、やがて首都圏のデパートに直営店を持つ、という二代目社長の夢もかなうかもしれません。


以上、という話題でした。実際には多角化経営の奥は深いです。次のような書籍も参考にぞうぞ。


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