中小企業のIT化が遅れている、と言われて久しく、実際見ていてもそうだと感じます。どうしたら、ITを活用して会社を強くすることができるのか、考えてみます。
目次
中小企業のIT化の遅れ
下図はEDI(電子商取引)の利用状況ですが、大企業と中小企業では大分開きがあります。電子商取引とはインターネット上で見積・注文・請求・決済などを行うもので、中小企業においても徐々に徐々に利用が進んでいるようです。
(出典:中小企業におけるITの利活用 – 中小企業庁 平成28年)
とはいえ、まだ半分近くの企業は利用しておらず、紙の伝票や帳票を使った昔ながらの方法で仕事しています。同じ中小企業でも規模の小さいところほど、その傾向はあるでしょう。逆に言うと規模の小さいところほどIT化の効果が出やすい、すぐに効果を実感できる傾向があります。
大企業もそうですが、中小企業でも規模が大きくなると、IT化に対応できない人というのが一定割合いて、抵抗勢力になりがちです。こういう方々をサポートして「味方」にすることが実は乗り越えるべきハードルだったりします。規模が小さく、例えば社員10名程度のような会社であれば、このハードルが低くなり、かえって導入効果が出やすいという訳です。
IT投資を行わないと儲からない
下図はIT化をした場合としない場合で売上高経常利益率(要するに儲かりやすさ)がどう違うか?を示したものです。はっきりと「IT投資あり」のほうが有利と出ています。
(出典:中小企業におけるITの利活用 – 中小企業庁 平成28年)
わずかの違いのように見えますが、これが毎年複利効果で積みあがっていくことを考えると、数年後には大きな差になります。「強いものや賢いものが勝つのではなく変化したものが勝つのだ」というダーウィンの言葉がありますが、まさにそういう感じです。IT化に舵をきって会社を強くしましょう。
IT投資を行わない理由
IT投資をやれば儲かりやすくなるのに、なぜしないのか?調査では下図のような理由により、IT投資を行わない(行えない)とあります。いくつかピックアップして見ていきます。
(出典:中小企業におけるITの利活用 – 中小企業庁 平成28年)
(1)人材がいない
これがトップの理由です。企業の規模にもよりますが、とても「情報システム部」とか専任の担当者を置いたりすることは無理、ということになります。そんな余裕は無い、というのは当然の話です。
そうすると経理とか総務の人に重ねて担当してもらうとか、社長が自ら担当するとか、そのような方法になりますが、いずれもITに疎くてよく分からない、勉強している暇も無いというのが実情でしょう。
また、外部のコンサルタントにお願いしようとしても、中小企業を対象として「経営」と「IT」の両方のコンサルティングができる人は意外と少ない、という状況があります。大手のシステムコンサルは高価ですし、そもそも中小企業を相手にしない、ということがあります。
ですが、後述のように、IT人材の問題を解決する方法はあります。
(2)費用対効果が分からないので投資しずらい
IT投資というと結構値が張るというイメージがあります。パッケージソフトのライセンスも高いですし、導入・運用にかかるコストも高いです。システムコンサルやベンダーから見積をとってもため息しか出ませんし、その金額を払って本当にリターンがあるのか、信じることができない、というのも無理はありません。
ですが、後述のように、費用対効果の問題を解決する方法はあります。
(3)中小企業側に予算が無い
初期コスト・運用コストともに高価ということになれば、負担できないという判断になるのは当然です。
ですが、後述のように、コストの問題を解決する方法はあります。
(4)IT化しても使いこなせない
社員がベテランであればあるほどITへの抵抗が強くなります。「ITリテラシー」という言葉がありますが、生まれたときからスマホがある今の若者と違って、ベテラン層にとっては新しいITシステムはきついものです。また、年齢と関係なく、10年以上の慣れ親しんだやり方を急に変えるというのはだれでも難しくて当然です。
ですが、後述のように、ITリテラシーの問題を解決する方法はあります。
(5)取引先の要請でIT化が進まない
上記の調査にはありませんが、結局のところ、取引先など周囲の企業と歩調を合わせる必要から、やむを得ず紙伝票のような古いやり方のまま、ということは往々にしてあります。自社だけ先走っても仕事にならない、という訳です。これは大企業においても「ある」話で、特定のお客様だけ紙伝票で対応など、いまだに存在しています。
これが日本企業は生産性が低いとされる理由のひとつで、全体の問題ですから、残念ながらなかなか有効な解決策が見当たりません。
IT化を進めて会社を強くする処方箋
(1)ITメンターを持つ
IT人材の問題を解決するための提案は、「ITメンター」を持つことです。ITメンターとは、「IT」と「経営」に精通して中小企業の社長や現場の相談相手となる人のことで、社員ではなく外部から入ってもらうようにします。
外部から入ってもらう場合、その方法は2つあって、ひとつは私のような個人でやっているIT経営コンサルタントを使うやり方、もうひとつは大手のITコンサルやベンダーを退職した人を顧問として使うやり方です。
このやり方であれば、下記のコストの問題も解決しつつ、「IT」と「経営」についてのアドバイスを受けることが出来ます。
(2)コストを抑える
前述のとおり大手のITコンサルではコストが高くて中小企業では負担できないことが多いです。また公機関を通じてシステムに強い「中小企業診断士」を招くという方法もありますが、ITコンサルほどでないにしてもコストがかかり、最初からそこまで踏み込みにくいという感じがあります。
個人のIT経営コンサルタントか、定年退職した人との業務委託契約であれば、コストを低く抑えることが可能です。個人のIT経営コンサルタントの場合、まずスポットコンサル(単発コンサルティング)を10万円程度の予算で数回受けてみて、良いなと思ったら顧問契約するという方法があります。顧問契約も仕事内容にもよりますが月あたり5万円程度から可能ですので、いきなり高額な負担ということにはなりません。
定年退職した人の場合でも同様で、月10万円程度の顧問料を支払い、週に1-2日くらい出社してもらう、といった感じになります。業務委託なので社会保険料を負担する必要もなく人件費を抑えることができます。定年退職したシニアでもIT化の経験があって、心身ともに元気な方はたくさんいますので、人材紹介会社にあたると良いでしょう。
また、IT化に取り組む内容についても、いきなり大きなシステム化を企図するのではなく、身の回りの「小さなIT化」から取り組みます。これにより当初コストを抑えることができます。
最初から高額のIT投資を考えるのではなく、低コストで人材を手当てして、小さなスタートをするところから始めます。
(3)費用対効果を出す
上記のように「小さなIT化」からスタートして、早めに費用対効果を実感することが大事です。これは社長自身のためにも、従業員にとっても重要なことで、効果を実感することで、次へのモチベーションが生まれます。
費用対効果の指標と目標の設定は上記のITコンサルタントや顧問と社長が相談して行い、数字を見ながら進めていきます。
「小さなIT化」とは例えば次のようなものです。中小企業においては比較的早期に効果が見込めるものです。
- パソコン1人1台化
- ペーパーレス化
- クラウドシステムを利用した情報共有
- Excelマクロを使った簡単な自動処理
- Webサイト(ホームページ)の改善
- Webマーケティングの実施
これらを小さくスタートして、PDCAを回しながら継続することで失敗しにくい状態になります。
(4)ITリテラシーを改善する
IT化は結局のところ人の問題が大きいです。社員のみんなが使いこなせるように、導入支援や運用支援を行う必要があります。つまりユーザーサポートです。ユーザーサポートを外部のITメンターに依頼することも可能ですが、コストを考えるといずれは自社内のメンバーでサポートできるように人材を育成した方が良いです。ITメンターにはこの社内のサポート要員の育成と補助をお願いする、というのが理想的です。
ITリテラシーのもう一つの面は「情報セキュリティ」です。セキュリティ対策の知識がないと、IT化が別のリスクを生むことになるからです。特に、パスワードや情報の漏洩を防ぐための基準作りとセキュリティソフトの運用が必要となりますが、難易度が高く失敗できないので、この部分だけITメンターに委託するという手もあります。
まとめ
中小企業がIT化の遅れを取り戻して、経営体力の強化を行うには、「経営」と「IT」に精通した外部人材を「ITメンター」として低コストで招き入れ、「小さなIT化」から着手して費用対効果を実感しながら、徐々に内部人材を育成し、将来的には基幹システムなどの大きなIT化に挑むという流れがお勧めです。
以上、IT化の遅れを取り戻したい中小企業の社長さんへ処方箋、という話題でした。関連して、こちらの本なども参考にどうぞ。
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