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難しい独占禁止法
企業の競争に関する法律は複雑で難解です。何をやってはダメで、何をやっても良いのか、常識だけでは分かりにくい場合があります。これは大丈夫だろう、ということが実は違法だったり、昔は大丈夫だったことが法改正によって現在では違法だったりして、油断できません。
それにも関わらず、「知らなかった」では済まされないのが、法的リスクのやっかいなところです。政府は官報に出した段階で、世間が知っている前提なので、注意していないと思わぬトラブルに巻き込まれる可能性があります。特に後から法改正があった場合がやっかいです。
最近も「あれ?それはまずいのでは?」という事例がありました。何がどうしてまずいのか説明してみたいと思います。
グレイな事例
とあるメーカーの事例です。そのメーカーが販売店を通じて製品を売るときにどのように値付けがされるかというと、メーカーが販売店に売る価格があって、そこに販売店が自分の利益(マージン)を上乗せして顧客に価格提示する、ということになります。
このとき、メーカーが販売店の価格(消費者やエンドカスタマーへの価格)を指定したり強制したりすると、これは「再販売価格の拘束」といって、完全にアウト。独占禁止法違反です。このため、メーカーが「だいたいこのくらいで売って」と希望を言えば、それが「希望小売価格」ですし、希望なし(販売店への価格しか提示しない)なら「オープン価格」ということになります。これらは、独占禁止法違反を回避するための方法です。
競争阻害効果
ところが、複数の販売店があった場合に、販売店各社への価格に差をつけたらどうなるか?A社はがんばっているのでB社より安い値段で卸します、という場合です。これは独占禁止法上、アウトではありませんが、グレイな事例ということになります。販売店の価格を指定しているわけでは無いので、「再販売価格の拘束」には該当しませんが、競争阻害効果が生じると認められる可能性があるから、です。
つまり、このメーカーの製品が欲しいと思っている顧客がいたとして、A社もB社も自分の利益(マージン)を上乗せして顧客に価格提示するので、必然的にA社が提示する価格が安くなります。結果として、この顧客はA社から買わざるを得ないから、です。
競争が無いことにより損を被る顧客
もちろんB社が利益を減らしてA社との競争を選ぶことは可能ですが、B社が競争を避けたりして、状況によってはこの競争は起きません。実際に起きないことが多いです。これが「競争阻害効果」です。結果的にこの顧客は競争に晒されていない製品を買うことになります。すなわち、競争に晒されていないため往々にして「高値掴み」となります。
独占禁止法では「競争阻害効果が生じると認められる場合には,不公正な取引方法に該当し,違法となる」(不公正な取引方法第12項〔拘束条件付取引〕,独占禁止法第19条)(流通取引慣行ガイドライン第3部第1)としています。
このガイドラインに照らすと、上記のメーカーの事例は競争阻害効果が生じる拘束条件付取引を行っていると判断される可能性があります。もちろん、B社やエンドカスタマーである顧客が公正取引委員会に訴えたりしないかぎり、発覚しない話かもしれませんが、メーカーは違法性のリスクを抱えていることになります。
流通取引慣行ガイドラインの改正
この流通取引慣行ガイドラインが平成29年6月に25年ぶりに改正されて、明確化とインターネット等最近の取引にマッチした内容に変わっています。最近の改正であり、これまでシロだったものがクロに変わっている可能性もあります。一度、下記のまとめを参照して、理解を更新しておくと良いでしょう。
流通取引慣行ガイドライン改正の概要(公正取引委員会)
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h29/jun/170616_01_files/170616_5.pdf
シロ・クロ判定は慎重に
ただし、上記の事例がかならずクロかというと、そうでもなく、その他の競争条件も考慮して個別に判断する、ということになっています。ちょっと怪しいなと思う場合には、公正取引委員会による独占禁止法に関する相談窓口を利用して当局の見解を事前に把握しておくとことをお勧めします。事前相談制度については、下記をご参照ください。
事業者等の活動に係る事前相談制度(公正取引委員会)
https://www.jftc.go.jp/soudan/jizen/index.html
以上、メーカーの販売店に対する価格について、競争阻害効果によりガイドライン違反になる事例について考えてみた、という話題でした。
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