個人事業主・フリーランスとして仕事を続けるべきか、法人成りして「会社」の形態にしたほうが良いのか、悩ましいものです。それぞれに利点・欠点があるから、です。
このため、いくつかの観点で比較検討して決めることになるのですが、今回は「社会保険」にフォーカスして考えてみたいと思います。あるモデルケースの場合に、個人事業主と法人とで社会保険のコストがどう違うのか、この違いを見ていきます。
目次
社会保険の種類
「社会保険」とひとくくりになっていますが、その内訳としては主に5種類の保険から成っています。下表のとおり、健康保険(と介護保険)および年金保険は個人事業主の場合と法人の場合では考え方が基本的に異なります。雇用保険と労災保険は従業員がいる場合のみ発生するもので、自分のためではなく従業員のために払うものです。
個人事業主 | 法人 | |
健康保険 介護保険 | 国民健康保険(市町村) | 健康保険 (協会けんぽ、大企業の組合) |
年金保険 | 国民年金(1階) | 国民年金(1階) 厚生年金(2階) |
雇用保険 | 従業員がいる場合のみ 従業員と半切負担 | 従業員がいる場合のみ 従業員と半切負担 |
労災保険 | 従業員がいる場合のみ 全額事業主が負担 | 従業員がいる場合のみ 全額会社が負担 |
モデルケース
ありがちな例としてこちらの4人家族の場合で試算します。
夫(世帯主)・・・43歳、個人事業主。収入月30万円。所得年250万円。固定資産税なし。
妻・・・41歳、パート。給与収入130万円(給与所得650,000円)。固定資産税なし。
子供・・・2人、収入なし。
健康保険と介護保険の計算例
「健康保険」は国民は全員加入する義務があります。個人事業主であれば、市町村の国民健康保険に世帯で加入します。法人成りすると、たとえ社長1人の会社でも年金事務所から健康保険に加入することになります(強制です)。法人の健康保険は、大企業であればそれぞれの健康保険組合がありそちらに加入しますのが、中小企業の場合は「協会けんぽ」に加入することになります。一方「介護保険」は、40歳から64歳まで健康保険料とあわせて払うものです。
個人事業主の場合、健康保険と介護保険は市町村ごとに計算が異なる場合があります。このため市町村のウェブサイトから計算方法を確認してください。仮に埼玉県所沢市の場合、モデルケースの4人1世帯で年額420,500円と計算されます。
法人成りして同じ役員報酬をもらったとすると、埼玉県の協会けんぽに加入した場合にはモデルケースの4人1世帯で月額17,130円となります。妻の給与収入が130万円を超えなければ、夫の扶養者となって保険料を負担する必要がないためかなり有利になります。いわゆる130万円の壁です。
ただし、この月額保険料は個人に対するものであり、同額を法人が負担する必要があります。つまり、個人と法人と合わせて全体では月額34,260円を負担することになります。
もう一つ法人成りした場合の重要なメリットは、「傷病手当金」の存在です。個人事業主の国民健康保険では傷病手当金制度が無いので、病気ケガをして働けなくなると、収入に対する補償が何もありません。別途自分で医療保険や収入補償の保険に加入しておく必要があります。法人成りして協会けんぽに加入しますと、傷病手当金制度があり、病気ケガで休んでいる間に一定の金額(月額標準報酬の2/3、モデルケースでは20万円)が毎月支給されます。万が一の場合にこの違いは大きいです。
年金の計算例
個人事業主の場合は、「国民年金」に加入します。この掛金(保険料)は全国一律になっており、毎年厚生労働省が発表しています。平成30年度は月額16,340円、また平成31年度については16,410円となっています。とてもシンプルです。
モデルケースでは妻がパート社員ですので、勤め先の厚生年金に加入しているとすると、保険料は月額10,065円となります。従って、世帯では月額26,475円となります(平成31年)。もしも、妻も国民年金への加入となりますと、世帯では2人分で月額32,820円(平成31年)となります。
一方、法人成りして夫が厚生年金に加入したとすると、保険料は報酬月額より27,450円となります。妻は第3号被保険者となって、健康保険と同様に保険料がかからなくなり0円です。よって、世帯では月額27,450円となります。ただし、こちらも健康保険と同様に法人側で同額を負担しますので、個人と法人と合計では月額54,900円となります。
厚生年金はいわゆる2階部分として国民年金に上乗せされたものですので、掛金が高くなりますが、その分引退後支給される金額が多くなる、ということになります。
雇用保険・労災保険の計算例
雇用保険は失業手当や育児休業給付のような働く人々の生活を補償するための保険です。従って、だれか従業員を雇ったときにその人の為に加入する、という考え方です。つまり、社長ひとりで法人成りした場合には、加入することができません。
労災保険は働く人々が勤務を起因として病気や怪我を負った場合に適用される保険です。従って、こちらも上記と同様に社長ひとりで法人成りした場合には、加入することができません。雇用保険との違いは、雇用保険が保険料を従業員と会社(事業主)で半切して負担するのに対して、労災保険は全額会社(事業主)が負担する点です。
今回のモデルケースではいずれも加入できないため、保険料は無し、となります。
まとめ
今回のモデルケースで、個人事業主の場合と法人成りした場合で、世帯としてどのようなコストの違いがあるか、年額(平成31年)でまとめると下表のようになります。ただし法人負担分は除外してあります。
個人事業主(従業員なし) | 法人(従業員なし) | |
健康保険 介護保険 | 420,500円 | 205,560円 |
年金 | 317,700円 | 329,400円 |
雇用保険 | 0円(加入できない) | 0円(加入できない) |
労災保険 | 0円(加入できない) | 0円(加入できない) |
トータルとしての結論は、「法人成りした方がお得」ということになります。特に健康保険の差が大きいのです。法人負担分の社会保険料が気になりますが、こちらは法人税の計算上損金参入(つまり税額を減らす効果)となるので、節税の観点からもお得となります。
ただしこの結論は、それぞれの置かれた境遇・家族構成などで変わってくる可能性がありますので、ご自身の場合に当てはめてシミュレーションすることをお勧めします。また、その他の条件も「個人が法人成りか」の判断には必要となりますので、広い観点から検討するようにしましょう。シミュレーションにあたって、お力になれることがありましたら、ご相談ください。
以上、個人事業主のままか、法人成りするか?社会保険のコストがどう違うか試算してみた、という話題でした。