【人事制度】中小企業の人事制度こそ「ジョブ型」が向ている【ジョブ型への移行方法】



この記事は「ジョブ型人事制度とは何ですか?中小企業ですが成長のため人事制度を刷新しようとしていますがジョブ型を導入できるでしょうか?」といった疑問に答えます。



日本企業の人事制度に変化の兆し

もう30年くらい外資系企業で働いており、人事制度は最初からいわゆる「ジョブ型」でした。ジョブ型とは、職務が先にあって、そこに人を採用し、給料を払うという考え方です。

逆に言えば、職務が変われば給料が変わり、職務が無くなれば雇用が無くなります。雇用喪失の場合は、同じ会社で別の職務を探すか、退職して外に出るか、のどちらかとなります。

日本以外なら割とこれが普通というか当たり前の世界です。日本企業のように新卒で採用して終身雇用というのは最初から無理があるように感じます。

案の定、最近では終身雇用が崩れつつあり、そこにコロナが来ましたから、日本流の家族っぽい運命共同体の感じが消え去ろうとしています。





中小企業の人事制度こそ「ジョブ型」が向ている

「ではどうしたら良いのか?」ということになります。大手企業では人事制度を「ジョブ型」へ移行させることを検討しているようですが、大きな組織ではこのチェンジは並大抵ではないでしょう。必ず内部から「抵抗勢力」が出てくるはずです。

ですが、中小企業であれば、むしろ「ジョブ型」の人事制度が向いており、もしも人事制度の再構築を検討している中小企業があれば「ジョブ型」への移行を強く進めたいです。

元々、「ジョブ型」はアメリカのスタートアップ企業から始まったものであり、そういったまだ規模が小さいけどこれから成長していく、という状況によくフィットするものだからです。社長の「鶴の一声」で変化を起こせる中小企業のほうが「ジョブ型」導入に向いているように見えます。



中小企業が「ジョブ型」に移行する方法

中小企業の人事制度を「ジョブ型」にする場合、どのような事をしなければならないか?というと、おおよそ次のこと導入することになります。

  • 職務記述書の作成
  • 職務ごとに給与の上限と下限を設定
  • 給与の決め方をデザイン
  • 人事考課制度を刷新
  • 公募制度の導入

以下に、それぞれ見ていきます。





職務記述書の作成

「ジョブ型」では職務記述書が欠かせません。社内の職務一つ一つについて、その職務タイトルや概要と詳しい「役割」や「責任」が書かれたものです。

例えば、経理部のスタッフであれば、「経費精算の窓口となる」ことが役割(の1つ)であり、「経費精算を適正に運営管理し監査に合格する」ことが責任です。こういった明文化によって、各人に与えられた役割が何で、どのような責任を担っているのか、の理解を会社側と本人とで理解を一致させます。

この職務記述書を会社の全職務について作成していき、人事や場合よっては社長が承認します。最初はかなりしんどい作業ですが、一度やってしまえば、後は更新するだけです。

職務記述書の例は外資系企業の経験者採用ページなどを見ると、採用する仕事の内容として掲載されている場合があります。これを参考にして頂ければ良いでしょう。



職務ごとに給与の上限と下限を設定

職務が記述されたら、その職務に「値段」を付けていきます。この仕事は年間報酬でいくらに値する仕事なのか?を決めます。

これも悩ましい作業ですが、現行の担当者給与など参考にしつつ、「上限と下限」の範囲で決めるようにします。例えば、経理部のスタッフなら年収400~600万円という感じです。

範囲で定める理由は、年功給からの移行をスムーズにさせるため、という意味があります。通常毎年の昇給により年次が増えると給料が上がりますので、もしある経理部のスタッフの年次が低い(若い)ため給与がこの範囲に入っていなければ、昇給の幅を大きくして早期にこの範囲に入るようにします。

逆に、そのスタッフがベテラン社員であり、上限に近かったり、または上限を超えている場合には、昇給の幅を小さく抑制するようにします。給与規定の作り方によっては、給料を段階的に減らしてその範囲に入れるといった方法もあります。

いずれにしろ、職務に対する給与の「上限と下限」が明示されることで、会社側としては昇給(減給)の根拠がはっきりすることとなります。従業員本人にとっても納得しやすいものです。



給与の決め方をデザイン

職務に対する給与の範囲が決まったら、次に具体的に従業員個人の給与金額をどう決めるのか?をデザインします。そのために、次の3つの要素があります。

  • 組織単位での給与総額を決める
  • 人事考課を反映させる
  • インセンティブを決める

給与の原資は会社全体としてプランして各組織へ配賦していきます。これにより組織単位での給与総額が決まります。

次に組織の長がその給与を組織の従業員各員へ配賦していく、ということになります。これが基本の流れです。

従業員個人の給与金額は、当然に人事考課を反映させます。反映のさせ方は、事前に従業員個人と達成基準を合意しておき、その達成具合に応じて昇給幅を変動させる、というやり方が一般的です。

組織に配布された総額にはまるように従業員個人の給与金額を決めるので、上長にとってかなり頭が痛い作業ですが、それが上長の主要な仕事(存在理由)であると言えます。

また、営業職のようなノルマを背負う人については、給与とは別出しでインセンティブを儲けるのが普通です。ノルマに対して何パーセント超えたかで基本給の何パーセントを付加するといった決め方をします。

ノルマなしの社員に対しては、会社の利益率に連動して追加ボーナスを支給しても良いです。儲けが出たら、それは全社員に還元します、ということです。





人事考課制度を刷新

人事考課のやり方はその会社の業種やそれぞれの職種によって変わりますが、ポイントは次の点です。

  • 目標管理を導入する
  • 自己評価と上長の評価を組み合わせる
  • 相互評価を導入する

目標は可能か限り具体的な数値指標によって定め、事前に従業員と上長とで合意します。この指標を3ヶ月ごとなど一定の間隔で双方確認して、問題点・改善点を話し合うようにします。これをワンオンワン (1対1)ミーティングと言います。

また、上長が一方的に評価するのでなく、従業員本人に「自己評価」してもらうことが重要です。何がうまくいって、何がうまくいかなかったか、それは何故か自己分析してもらい、書き残すようにします。

そうして1年経過したら、目標が達成できたかどうか確認して、それを上述の給与決定に反映させるのです。数値指標は自責だけでなく他責で変動する場合もあり、そういった配慮は必要です。

どこの職場でも従業員は上長の評価に不満を持つのが一般的です。このため、従業員が上長を評価する仕組みも合わせて導入します。評価結果やコメントは人事部長や社長だけが読むようにして、直属の上長が分からないようにします。

これにより忌憚のない(時として辛辣な)意見を吸い上げることができ、マネジメントの育成や人事にも活用することができます。



公募制度の導入

「ジョブ型」に移行するのであれば、合わせて公募制度を導入します。公募制度とは、社内の職務の欠員や新設があったときに社内ホームページなどで、公にして従業員が自由に応募できるようにする制度です。

これには以下のようなメリットがあります。

  • チャレンジ精神の喚起。優秀な人や上昇志向が強い人が難しい仕事にチャレンジできる土壌ができます
  • 不満の軽減。現在の職種に不満があれば、退職ではなく別の職種に映ることができ、人材流出を防ぐ効果があります
  • 公平な人事異動。特定の人を異動させたい場合でも公募という形をとることで、他の人にも応募する機会を与えて、公平さを演出することができます

また、従業員が公募に申し込んだ場合には、元の部署の上長はこれを拒否できない、といったルールをあらかじめ規定しておく必要があります。





以上、中小企業の人事制度こそ「ジョブ型」が向ている、という話題でした。通常は以上のような変化を1-2年のプロジェクトとして導入していきます。実質的な準備の面でも人々の意識の面でも急に変えることはできません。継続的にコミュニケーションしつつ変化を起こしていくといったイメージです。うまくいけばとても強い組織に生まれ変わるでしょう。

お役に立てることがありましたら、こちらよりご相談ください。


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