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休廃業や解散が増え続けている
日本経済全体として今一つぱっとしない状況がずっと続いています。
アベノミクスが始まったのが2012年末からでしたが、下図のとおり休廃業や解散、倒産といって不景気トレンドにはあまり影響を与えていないようです。
(出典:中小企業庁)
倒産件数が減少してきているのは良いことですが、その反面で休廃業や解散がずっと右肩あがりで増えています。
先日もダイヤモンドオンラインにパン屋さんの廃業が激増している、というニュースが掲載されていました。
食パンが空前のブームなのにパン屋の倒産・廃業が急増している理由 (2020/2/13)
https://diamond.jp/articles/-/228573
主な淘汰の原因は需要が低迷またはシフトしていく中で、競争に負けてしまう、というある意味自然な新陳代謝です。今後も少子化・高齢化を背景として、全ての業界でこういった傾向が続くものと予想されます。
そこで今回は「残念ですが、やっぱり事業をたたむことにしました」という場合にどのくらいコストがかかるのか、説明します。
個人事業主の場合
個人事業主が事業をたたむ場合、支払不能といった状況でなく、普通に商売を止めるだけなら、金銭的なコストはかかりません。ゼロ円で事業をたためます。ただ止めれば良いというだけです。
ただし、状況により役所等に様々な届を出す必要があり、時間的なコスト(手間)はかかります。例えば、次のようなもので、なかなかの分量です。
(1)税務署に対して
- 個人事業の廃業届出書
- 所得税の青色申告の取りやめ届出書
- 事業廃止届出書(消費税)
- 給与支払事務所等の廃止届出書(従業員がいた場合)
- 予定納税額の減額申請書(所得税。必要に応じて)
(2)都道府県税事務所に対して
- 廃業届
(3)年金事務所に対して(5人以上の従業員)
- 健康保険・厚生年金保険適用事業所全喪届
- 健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届
(4)労働基準監督署に対して(従業員がいた場合)
- 解雇予告除外認定申請書(解雇する場合事前に認定を受ける)
- 労働保険確定保険料申告書
(5)ハローワークに対して(従業員がいた場合)
- 雇用保険適用事業所廃止届
- 雇用保険被保険者資格喪失届
- 雇用保険被保険者離職証明書
会社を解散して清算する場合
会社を解散して精算する場合には基本的に次の流れになります。
- 会社の解散を特別決議(株主総会で過半数の議決権を持つ株主が出席して、3分の2以上が賛成)
- 清算手続
- 清算結了
まず解散を決議したら、「解散登記」を行います。「解散会社」であることと、「清算人」(多くは取締役から選任)を法務局で登記するのです。この手続きは自分でやるにはハードルが高いので、一般には司法書士にお願いすることになります。
このため、登録免許税・司法書士報酬で、合計12万円程度が必要となります。
解散登記を行ったら、期初から解散日までについて税務署に「解散確定申告」を行う必要があります。この特殊な確定申告のために税理士費用が10万円程度かかります。
清算手続に入りますと、官報公告を出しますので、その費用が3万円程度、その他登記事項証明書など数千円の費用も必要となります。清算手続とは、残った会社財産を換金する作業です。もし負債があれば、これを返済します。返済出来ないほどの負債があれば、破産などを検討します。
清算人が清算手続を終えると、「清算結了」となって会社(法人格)が正式に消滅することになります。この消滅のために、法務局に「清算結了登記」を行います。この登記も一般には司法書士にお願いすることになります。
登録免許税・司法書士報酬で、合計5万円程度が必要となります。
清算結了登記を行ったら、清算手続に関する「清算確定申告」を税務署に行います。この特殊な確定申告のために再び税理士費用が10万円程度かかります。
以上のように、様々な費用が発生し、合計すると事業をたたむまでに40万円前後かかるということになります。会社をたたむのも意外と高くつくものです。
また、確定申告以外にも役所等への届出が必要です。例えば、次のようなものです。特に従業員を解雇しなければらない時には事前に認定を受ける必要があるので、注意が必要です。
(1)税務署に対して
- 異動届出書(解散時、清算結了時それぞれに)
- 事業廃止届出書(消費税)
- 給与支払事務所等の廃止届出書(従業員がいた場合)
(2)都道府県税事務所に対して
- 異動届出書(解散時、清算結了時それぞれに)
(3)年金事務所に対して
- 健康保険・厚生年金保険適用事業所全喪届
- 健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届
(4)労働基準監督署に対して(従業員がいた場合)
- 解雇予告除外認定申請書(解雇する場合事前に認定を受ける)
- 労働保険確定保険料申告書
(5)ハローワークに対して(従業員がいた場合)
- 雇用保険適用事業所廃止届
- 雇用保険被保険者資格喪失届
- 雇用保険被保険者離職証明書
破産する場合
個人事業主が支払不能の場合や、法人が債務超過で事業をたたむ場合は、弁護士に依頼して裁判所に自己破産の申し立てを行います。このとき、裁判所と弁護士に対して手数料を支払うことになります。
裁判所に支払うことになるのは、申立手数料と郵便切手代、および予納金(官報掲載費用)です。それぞれおおよそ次のような金額となります(正確な金額は裁判所にお問い合わせを)。
- 申立手数料・・・法人は1000円、個人は1500円(収入印紙)
- 郵便切手代・・・債権者数によって変わる
- 予納金・・・官報掲載費用を含めて12000円程度から(財産なしの場合)、最低20万円(財産ありの場合)
予納金はこれを納めないと裁判所が手続きを開始しないので必ず必要です。事案の規模によって金額が変わり、数百万円となる場合もあります。裁判手続の必要経費をあらかじめ納めて、使い残しがあれば返還される仕組みです。
また弁護士費用(報酬)は様々ですが、個人なら相場では20-40万円程度と言われています。法人で負債総額が大きくなれば、報酬も高くなり数百万円となる場合もあります。
以上、事業をたたむコストがどのくらいかかるかご存知ですか?という話題でした。会社の設立(法人成り)は比較的簡単に出来る時代になりましたが、終わらせるときには意外にコストも手間暇もかかるものです。そこまで気にして事業を始める人はいないでしょうが、知っておくと良いです。
これから事業をたたむという方は、破産する場合には弁護士を中心に相談し、破産ではなく普通の廃業なら税理士や司法書士を中心に相談されると良いです。なじみの税理士などがいないという方は<税理士ドットコム
>といったマッチングサイトで無料で紹介を受けることができます。
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