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民法の改正が続いている
ここのところ少子高齢化といった社会状況の変化に伴って、国が基本法の1つである民法を改正しまくっています。「相続」関連ですと、次のような感じでバラバラと新しい法律が施行されています。全部一緒のほうが分かりやすいのですが、そうなっていません。
- 2019年1月から自筆証書遺言の方式を緩和する方策
- 2019年7月から遺留分制度の見直しなど
- 2020年4月から配偶者居住権など
- 2020年7月から遺言書保管法
これ以外にも20年4月から債権法改正や22年4月から成年年齢が18歳に変更など、私たちの生活に影響が大きい改正が続々とやってくる予定になっています。
今回は、このうち「遺言」に関する話題について整理してみます。知らなければ損してしまうかもしれない「ナウな遺言」の書き方・残し方について、です。
法改正の背景
映画やテレビドラマで見る「遺言書」は資産家だけのもので、執事がうやうやしく出して来たりして、物語の発端になったりするわけですが、本来は誰でも作成できる割とラフなものです。良い意味でもっと気楽に普及してよいはずのものです。
ところが、実際にはそうなっていません。何故か?というと手続きが面倒くさ過ぎるからです。
もちろん公式な書類ですので、雑に扱われても困る訳ですが、負担が重すぎるのもダメです。そこで今回の法改正となりました。
一連の法改正によって、以下に説明するような簡略化や負担の軽減が図られています。
遺言の残し方は3通りある
その前に、遺言の残し方は3通りあるのをご存知でしょうか?この3つです。
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
- 秘密証書遺言
この他にも、飛行機がまさに墜落しそうだというときに紙片に走り書きしたメモなども遺言として認められる場合があります。
このあと一つずつ説明していきます。
自筆証書遺言
文字通り、自分で書いた遺言です。書式は特に決まったものはなく、自分で自由に書くことができます。
ただし、紙にペンを使って自筆しないといけません。パソコンやワープロ打ちはNGです。
今まではこのルールだけだったのですが、法改正により財産目録はパソコンで作成してもOK、通帳のコピー添付もOKと変わりました。
以前は、財産目録や通帳の内容も全部ペンを使って自筆しなければならず、分量が多い場合には高齢の方にとって大変な負担でした。意味が無いことはやめようということで、財産目録はエクセルなどで作り印刷したもので良いことになっています。
ただし、全てのページに自筆の「署名」と「押印」が必要です。
こうして作成した遺言書は自分で保管してもOKです。その際封印はしなくても良いことになっていますが、普通は封印します。保管場所は自宅の金庫や机の引き出しなど、普段自分専用の場所に置いておいた良いでしょう。ただし、あまり隠し過ぎると亡くなった後で発見されない危険もあります。
このため、法改正により令和2年7月から法務局での保管ができるようになります。もし自筆証書遺言を作成するなら法務局に保管することをおすすめします。
2020年12月追記>>自筆証書遺言書保管制度の公式サイト(法務省)
また、法務局に保管していない場合(自宅で保管していた場合)は、遺言書を発見した相続人は速やかに家庭裁判所に検認(開封・確認の手続き)を申し立てる必要があります。この検認という手続きを経ないと遺言が有効にならないからです。
法務局に保管しておけば、検認の手続きは省略となります。相続人に手間をかけさせない点からも法務局の保管が良いです。
自筆証書遺言のデメリットは、自分で書いてしまうので、法律の専門家が介在せず、内容に矛盾や誤りが生じる可能性がある、という点です。この点をクリアするには、司法書士や弁護士といった専門家にサポートしてもらうか、次の公正証書遺言を作成することになります。
公正証書遺言
公証役場で公証人に書いてもらう遺言です。公証人は法律の専門家ですから、より信頼性の高い遺言を作成することができます。
公証人に書いてもらう場合は、打合せを何度かする必要がありますし、公証人に時間を使ってもらう訳なので、それなりに費用がかかります。目的となる財産の金額によって手数料が決まっており、例えば財産金額が5000万円から1億円までで54000円ほどかかります。
公証人が自宅や老人ホームなどに赴く場合には日当や交通費も負担する必要があります。詳しくは公証役場のWebサイトでご確認ください。
公正証書遺言を作成する場合のデメリットは、立ち合い証人が2人必要という点です。出来上がった遺言を公証人が読み上げますので、それを一緒に聞いて署名・押印してもらう必要があるのです。これを誰に頼むか?が面倒です。
ただし、公正証書遺言を作成すれば内容的には間違いがありませんし、保管も公証役場が行いますので、とても安心です。
秘密証書遺言
本人だけの秘密の遺言書を作成したい場合に作るのが秘密証書遺言です。基本的には公正証書遺言と同じですが、立ち合い証人への入れた読み上げは行われません。
やはり立ち合い証人が2人必要ですが、証人や公証人は遺言の「存在」だけが知らされ、内容は秘密のままとなります。
このため、自筆証書遺言と同様に内容に矛盾や誤りがある可能性がありますし、家庭裁判所の検認を受ける必要もあります。
保管が公証役場で行われる点と、公証人への手数料が若干安く済む点がメリットですが、上記のようなデメリットの方が大きいため、実際には、作成される例はまれです。
以上、「ナウな遺言書」の書き方・残し方、という話題でした。民法の改正によって、「自筆証書遺言」がかなり扱いやすいものになります。「相続」が「争族」にならないようにちゃんと遺言書を書いておくと良いでしょう。
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