この記事は「ミスが多くて業務品質の目標が達成できず困っています。どうしたら最高の品質を実現できますか?」といった疑問に答えます。
目次
「業務品質は良ければ良いほど良い」は間違い
ふだんプロジェクトマネージャの仕事の一環として、プロジェクトが対象としている業務のコンサルや改善提案をすることがあります。だいたいは業務効率を改善してコストを削減したり、新しいシステムに合わせて業務プロセスの方を変更したり、といったことです。
そうするとその業務に長年携わってきた人と話すわけですが、特に相手が日本人の場合によく感じることがあります。
それは、そういった人たちは「業務品質は良ければ良いほど良い」と思っていること、です。
これは割と明確に間違えで、むしろ改善の阻害要因にしかなっていないことが多いです。今回はなぜ高品質がむしろダメなのか、ではどうしたら良いのか?といったことについて説明します。
顧客満足度というトラップ
昨今の会社業務では「顧客満足度」を定点調査して業務を改善してますっ!という所が多いです。顧客とは外部のお客様だけでなく、内部の後工程部署だったりもします。
大体は10点満点で「満足度」を評価してもらい、この平均値を使って今月は良くなりましたとか、前年同月比で大幅に改善などと言っています。ですが、これが間違いの元です。
なぜなら、そういったアプローチにはゴールが無いから、です。「えっ?今年のゴールは平均9.0を達成することですが?」と言われるかもしれませんが、9.0を達成すると次は9.3を目指し・・・という具合に終わりがありません。終わりなき旅です。
その結果、陥るのが「過剰品質」です。
ビジネスリスクを取らない結果が「過剰品質」
終わりなき顧客満足度の向上を目指した結果、必ず「過剰品質」の状態になります。過剰品質とはつまり「やり過ぎ」のことです。
よく考えたら誰も求めていないことをやっていたり、ちょっとしたミスも起きないように何重にもチェックしたり、品質に対する許容度がどんどん無くなっていきます。このため業務プロセスが複雑なものになり、処理に時間がかかるようになり、人が足らなくなり、従業員のストレスが大きくなります。
新人を採用しても立ち上げに時間がかかり、ミスを責める組織文化になって、やっと立ち上がった新人がすぐに離職するようになります。
過剰品質は組織に最悪なサイクルしかもたらしません。これらは「ミス」というビジネスリスクを取らない体質になっていることが原因です。
過剰品質がもたらす低生産性と収益の停滞
「ミス」というビジネスリスクを取らないことで、その業務の生産性は著しく低下してしまうことになります。品質は高くてもコストが高すぎて、その業務自体を維持できなくなる可能性が出てきます。
高品質の結果、仕事を失うという本末転倒なことが起きるのです。「そんなバカな」と思うかもしれませんが、実際にそういう現場をいくつか見てきています。
あと、もっと悪いことは、高品質が必ずしも収益と相関しない、ということです。つまり、品質が高いからといって売上が大きくなるとは限らない、という話です。
このことはこれまでも薄々体感としてありましたが、こちらの書籍「おもてなし幻想 デジタル時代の顧客満足と収益の関係」がデータをもって証明してくれました。
この本に書かれていることは、まさに目からウロコ。そのとおりです。
つまり、業務品質は良ければ良いほど良い、というのは間違えで、過剰品質は高コストをもたらすだけで、必ずしも売上収益の改善に貢献しない、という結論となります。これにより二重に損することになります。
品質はコントロールするもの
「ではどうしたらよいのか?」という叫び声が聞こえてくる訳ですが、これは割と簡単で、「品質はコントロールするもの」と理解するだけです。
コントロールするものとは、すなわち上下に変動するものを一定の範囲に収まるように管理すること、です。体重は増えすぎても減り過ぎてもダメですが、同じように品質は低すぎても高すぎてもダメ、ということです。
Quality Control(クオリティ・コントロール)というように、品質はコントロールするものなのです。
品質のコントロール方法
既存の顧客満足度調査にしろ、エラー率測定にしろ、そのまま続けると良いです。せっかく過去のデータがあるので、比較のために続けましょう。
次にコントロールのために「上限」と「下限」を決めます。例えば、上の例では顧客満足度が9.0より高くなったら高すぎる、8.0より低くなったら低すぎる、というように決めるのです。これは決めごとなので、管理者がビジネスリスクを取って決めるだけです。
決めたら、下図のようなコントロールチャート(管理図)にプロットして監視するようにします。
品質の上下動は「たまたま」の可能性がありますので、例えば品質が上限下限を外れることが3回くらい連続で起きたら、対策をとるようにします。1回や2回なら「たまたま」として行動を起こす必要はないかもしれません。この辺の「さじ加減」は業務の内容や管理者の判断によります。
副作用:過剰品質を捨てると人が余る
このように品質はコントロールするものと考えると、過剰品質を防ぎつつ、「ちょうど良いコスト」で「ほどほどの顧客満足」を実現できるようになります。前述の書籍にもあるとおり「ほどほどの顧客満足」でも充分に売上収益に貢献できますので、全体として最適化された状態になりやすいです。
ただし、副作用として懸念されるのは、これまでの過剰品質体質からの方向転換に付いてこれない人がいること、また最悪の場合は業務負担が軽減された結果、人が余ってしまうということです。つまり、変化に順応できない人が余剰人員になりやすい、といった問題があります。
自分の場合、このことはコンサルを始める前に管理者によく説明するようにしています。最終的に人事面も含めた検討が必要になりますよ、と案内しています。
以上、「品質とはコントロールするもの」が分からない人が多い問題、という話題でした。これに気が付いて是正すると、売上を落とすことなく、コストを落とし、従業員のストレスも解消する、という効果があります。海外ではあまり見ない問題なので、過剰品質は日本人特有の問題なのかもしれません。
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