【やさしい経理(10)】 仕訳で説明する決算のやり方【初めての方にも分かりやすく解説】

この記事は「決算は何のためにやるのですか?初めて決算をするのですが、何をしたら良いでしょうか?」といった疑問に答えます。



決算とは

1事業年度または1年が終わると、決算をします。決算とはその期間の損益や財産の状態を確定させる作業のことをいいます。

確定した決算に基づいて、税金の金額を計算し、申告書を作成して税務署に提出します。また、会社の出資者である株主に対して経営実績を報告することになります。

決算をしないと普通は中途半端な状態のままで損益や財産が確定したとは言えませんので、きちんと決算をしなければなりません。決算作業は業種や規模によってはかなり大変となり経理担当者としては憂鬱なものですが、多くの小規模事業者にとっては慣れればそれほど負担の重いものでもありません

以下のポイントを抑えてしまえば、年に1回のルーチン作業となります。もちろん年に1回ですと忘れてしまうので、時期が来たらこちらの記事で思い出して頂くと良いでしょう。





商品の棚卸をする・売上原価を求める

「商品」を仕入れて販売している場合には、商品の棚卸(たなおろし)という作業が必要です。一年を通じて仕入れたり販売したりした商品の期末日時点での「残り」をカウントする作業です。

商品販売業では通常「商品有高帳」という帳簿を用意して、いつ・何を・何個仕入れたかを記録しつつ、いつ・何が・何個売れたかも記録していきます。そうすると、商品有高帳に記載された期末時点での「残り」が分かる訳です。

この段階で、帳簿上の売上原価が決まります。次の仕訳をした後の「仕入」勘定の残高が売上原価となります。

取引: 決算につき売上原価を求める

仕入64,000繰越商品(期首)64,000
繰越商品(期末)29,000仕入29,000

最初の仕訳が期首時点での繰越商品を仕入勘定に振り替える仕訳で、次の仕訳は商品有高帳の「残り」を翌期の繰越商品にする仕訳です。この仕訳をすると「仕入」勘定の残高は当期の売上原価を示します。

次に倉庫に足を運んで、実際の商品を点検します。この時、商品の数が足りないことがあります。理由は分かりませんが、無くなっていたりします。このような場合には「減耗損」を計上します。

取引: 期末の実地棚卸で商品が遺失していた

減耗損1,000繰越商品1,000

さらに、幾つかの商品が破損したりして売り物にならないことが分かったりします。このような場合には「評価損」を計上します。

取引: 期末の実地棚卸で商品の破損に気が付いた

減耗損700繰越商品700

このような実地棚卸による減耗損や評価損の計上は、必ず決算でやらなければならないというものではありません。可能なら月に1回ぐらい行って在庫の状態を正確に把握しておく方が良いものです。実際にはなかなか面倒で出来ないので、決算で年に1回やるという場合が多いのです。



減価償却費を計算する

減価償却費については以前に以下の記事にて説明していますので、ここでは説明を割愛します。期中を通じて利用した固定資産や期中に購入した固定資産については、決算で減価償却費を計上します。

また、期中で使わなくなった固定資産については帳簿価額をゼロにして「除却損」を計上します。

取引: 古い機械を料金を払って処分した

固定資産除却損1,500機械装置1,000
現金預金500




経過勘定を整理する

決算の時点で代金だけ先に払ってまだサービスを受けていないものがあったり、逆にサービスだけ先に受けてまだ代金を払っていないということがあります。

例えば、保険金を1年分前払いしてその途中で期末が到来すると、まだサービスを受けていない保険期間の残りがあることになります。このような場合は、支払時にいったんは「保険料」としたもののうち、まだサービスを受けていない部分を「前払費用」として振替えます。この「前払費用」が経過勘定です。

取引:保険料を1年分支払った

保険料12,000普通預金12,000

取引:7ヶ月経過した時点で期末を迎えた(残り5ヶ月)

前払費用5,000保険料5,000

こうすることで、当期の「保険料」は7,000円となり、当期に発生した費用を正しく計上したことになります。この「当期に発生した費用を正しく計上する」ことを「発生基準で計上する」といい、会計のルールにより費用の認識については発生基準を採用することになっています。

ただし、面倒なので上の例のように期中は代金を支払ったときに費用として仕訳し、期末に見経過部分を経過勘定に振替えるという仕訳をします。同様な経過勘定には以下のものもあります。費用だけでなく収益についても同じ発生主義で認識するので注意しましょう。

  • 未払費用:サービスを既に受けておりまだ請求を受けていない
  • 前受収益:代金だけ先にもらったがまだサービスを提供していない
  • 未収収益:サービスを先に提供したがまだ請求していない

取引例としては以下のとおりです。

取引:機材をリースしたが期末時点でまだ請求書が届いていない

リース料1,000未払費用1,000

取引:来月分の家賃が振り込まれた(大家さん側)

普通預金1,000前受収益1,000

取引:お金を貸し付けておりその利息は翌期に支払われる

未収収益1,000受取利息1,000

このように当期に発生した費用と収益を計上し、翌期にはこれらの勘定科目を相殺する仕訳をします。上の例では、それぞれ次のようになります。

取引:保険料に係る前払費用を翌期首に相殺

保険料5,000前払費用5,000

取引:翌期にリース料の請求書が届いたので支払った

未払費用1,000普通預金1,000

取引:翌期首に受取家賃に係る前受収益を相殺(大家さん側)

前受収益1,000受取家賃1,000

取引:翌期に貸付金に係る利息を受け取った

普通預金3,000未収収益1,000
受取利息2,000


消費税を計上する

消費税の税額計算は決算の一環として行います。具体的な方法は以下の「税金を仕訳する」の記事にて説明していますので、そちらをご参照ください。

ここでポイントは、税込方式で仕訳する場合には決算では以下の例のとおり消費税は租税公課という「費用」として計上するという点です。

取引: 消費税を計上した(税込方式)

租税公課1,000未払消費税1,000

このため、決算の一環としてこの費用を計上しないと正しく当期の損益を求めることができない、ということになります。消費税の課税事業者となったら忘れずにこの処理をしましょう。



引当金を計上する

費用は発生主義で認識すると書きましたが、一定の要件に該当すれば将来発生する予定の費用を当期に計上しても良いというルールがあります。この場合の費用の相手となる勘定科目が引当金です。

一定の要件とは、その費用が将来に発生する特定の費用又は損失で、その発生原因が当期以前にすでに起きており、発生の可能性が高く、かつ合理的にその金額を見積もることができる、ということです。 

特定の費用又は損失には色々ありますが、中小企業で一般的に可能性があるものは次の3つです。

  • 貸倒引当金
  • 賞与引当金(従業員)
  • 退職給付引当金

貸倒引当金は、金銭債権(売掛金や貸付金)の全額が明らかに回収不能な見込みになった場合に設定します。会社更生法など法律により切り捨てとなったのであれば「貸倒損失」として当期の費用にしますが、見込みがあるだけの場合は貸倒引当金を設定します。 

取引: 取引先が倒産してしまい期末時点で売掛金全額が回収不能の見込み

貸倒引当金繰入額1,000貸倒引当金1,000

取引: 翌期になった(開始仕訳)

貸倒引当金1,000貸倒引当金戻入額1,000

取引: その売掛金の全額切り捨てが確定した

貸倒損失1,000売掛金1,000

上記のように当期に「繰入額」として計上した費用は翌期首に「戻入額」として収益として計上し、さらに切り捨て確定時に売掛金を貸倒損失に振替える仕訳をします。翌期では収益と損失が相殺し、損益ゼロの状態となります。

賞与引当金は従業員に対する賞与で、就業規則に賞与を支払う規定があり、次回の賞与額が規定に従って計算できる場合に計上します。 中小企業の場合そもそも就業規則に賞与規定が無いことも多いので、計上が必要かどうかは場合によります。

また、費用計上したとしても法人税法上は損金不算入となり結局課税されることになります。さらに役員賞与は引当金に計上できず、全額払った期の費用となるので注意が必要です。

取引: 夏の従業員ボーナス分を決算で費用計上した

賞与引当金繰入額1,000賞与引当金1,000

取引: 翌期になった(開始仕訳)

賞与引当金1,000賞与引当金戻入額1,000

取引: 夏の従業員ボーナスを支給した

賞与1,500普通預金1,500

退職給付引当金は文字通り、就業規則の退職金規定により支払う義務があるお金を引当金として設定するものです。将来支払う退職金のうちいくらが当期に発生したか?の計算は容易ではなく、退職金計算サービスを行う会社に外注したり、社労士事務所に委託するほうが良いでしょう。

そうして金額が求まったら、次の仕訳(簡便的方法)をします。

取引: 従業員の退職一時金のうち当期発生金額を引当金に設定する

退職給付債務1,000退職給付引当金1,000

退職給付債務も法人税では損金不算入となり、結局課税されます。

実際には中小企業では「中小企業退職金共済制度(中退共)」に加入する企業が多く、退職金はこちらでカバーしています。中退共への掛金は全額当期の費用(損金算入)とすることができます。





繰延資産を償却する

繰延資産とは既にサービスを受けておりその費用の支払いも済んでいるのですが、その効果が1年以上継続するものを資産として計上したものです。費用なのに資産?という感じがしますが、一度に費用にせず一旦資産に計上して数年間に分けて費用化していくといったイメージです。

繰延資産には色々ありますが、中小企業で一般的に可能性があるものは次の3つです。

  • 創立費
  • 開業費
  • 敷金(返還されないもの)と礼金

創立費とは会社の設立費用です。まだ会社を設立する前に発生する費用なので、本来その会社の費用にすることは矛盾がありますが、設立登記などの費用は創立費としてその会社の費用にすることができます。一旦資産計上して5年以内に償却するルールになっています。

取引: 開業前に会社の設立登記費用を払っていた(開始仕訳)

創立費1,000現金1,000

取引: 決算時に一部を償却(5年均等償却)

創立費償却額200創立費200

開業費は起業の際に必要となる様々な準備の費用です。通常開業にあたって様々なものを購入しますので、それらを開業費として一旦資産計上して5年以内に償却するルールになっています。開業した後に購入したものは、通常の会計処理を行います。

取引: 開業前に準備費用を払っていた(開始仕訳)

開業費1,000現金1,000

取引: 決算時に全部を償却(任意償却)

開業費償却額1,000開業費1,000

創立費や開業費は5年以内で償却すれば良く、一度に全額費用計上することもできます(任意償却といいます)。利益が出ているときは費用計上することにより節税効果があります。

事務所などの事業で使う不動産を賃貸すると一般的には敷金礼金を支払う必要があり、敷金の一部は退去時に返還されない契約いなっていることがあります。このような場合、礼金と敷金のうち返還されない部分を長期前払費用として資産計上し原則として5年間で償却します。

この敷金礼金については会計上は繰延資産ではなく、法人税法固有の繰延資産とされています。他にもこのような法人税法固有の繰延資産がありそれぞれに法律で償却期間が定められています。

取引: 事務所を賃貸して敷金(返還されない)と礼金を払った

長期前払費用1,000現金1,000

取引: 決算時に一部を償却(償却期間5年)

長期前払費用償却200長期前払費用200




勘定残高をチェック

決算では現金や普通預金の実際の有高と帳簿の残高を一致させる仕訳をします。 現金については毎月もしくは、特に現金商売のお店を経営してる場合には毎日の残高チェックを行って、細かく合わせて行くほうが良いです。

もし違いの原因がわからない場合には次の仕訳をして調整します。

取引: 現金の有高が足りない(原因不明)

雑損300現金300

普通預金についても通帳の残高と帳簿の普通預金勘定がぴったり一致するように日頃から確認するようにします。どうしても一致しない場合は、やはり次の仕訳をします。

取引: 普通預金の残高が足りない(原因不明)

雑損300普通預金 300

「仮払金」や「仮受金」といった一時的な勘定を使っている場合があります。例えば、従業員の出張費を仮払いしたような場合です。

出張が終わったあと、旅費精算するのを忘れていると「仮払金」が残ったままになっていますので、これを決算時に精算します。

取引: 仮払金を調べたら旅費精算の未済だったので精算した

旅費交通費1,000仮払金1,800
現金800

「預り金」勘定は給与の支払に際して税金や社会保険料の天引き額を一時的に預り、会社の負担分と合わせて支払う目的で使います。この期末時点の「預り金」残高が適切な金額かどうかもチェックします。毎月出入りの多い勘定なので、期中で取り崩しを忘れていたりミスが見つかりやすいので確認しましょう。

「未払金」と「未収金」の計上漏れもチェックします。「未払金」は確定債務で費用として確定していてまだ支払っていないもの、「未収金」は確定債権で収益として確定していてまだ代金を受け取っていないものです。

取引: 外注費の請求書が届いたが支払期限が来月(翌期)なのでまだ払っていない

外注費1,000未払金1,000

取引: 工事が終わって引き渡したが支払期限が来月(翌期)なのでまだ支払われない

未収金1,000完成工事(売上)1,000

なお、工事の場合は進行途上で期末を迎えた場合であってもその収益の確実性が認められるときは工事進行基準を摘要して収益を認識します。

取引: 工事(1,200円)の3分の2まで進行した時点で期末を迎えた

未収金800完成工事(売上)800


家事関連費を按分する

個人事業主の場合は、期中は支払金額の総額で費用を仕訳して、決算でそのうち家事消費(プライベートな部分)を分離する仕訳をします。このことを家事関連費を按分といいます。

家事関連費で典型的なものは、家賃、水道光熱費、通信費、車両費などです。

賃貸マンションを借りて、その一部を事務所として使って在宅ワークをしている場合、その家賃の一部は必要経費に認められます。この場合は、事業に利用している部屋の面積などで家賃を按分します。

取引: 年間家賃(1,000円)のうち1部屋分(20%)が個人事業のためのものである

事業主貸800地代家賃800

水道光熱費は使用時間や使用量の割合で家事按分しますが、この割合を客観的に算出するのは困難です。もちろん細かく計算することもできますが、普通は無理のない範囲で妥当な割合を使います。

一般的には20%から30%程度です。あまり大きくすると税務署から指摘が入りますので、無理しないようにしましょう。

取引: 年間水道光熱費(1,000円)のうち20%が個人事業のためのものである

事業主貸800水道光熱費800

スマホ代(通信費)についてはベストな方法は、仕事用とプライベート用を分けて2台持つことです。現実的な問題としてもプライベート時間に仕事の連絡が入るのは避けたいところですから、根本的に2台に分けてしまうことをお勧めします。そうすれば家事按分の必要はありません。

もし1台だけでの運用であれば、通話時間などで家事按分しますが、この割合も客観的に算出するのは困難です。税務署の指摘があった時に説明できる常識的な範囲で按分しましょう。

取引: 年間通信費(1,000円)のうち30%が個人事業のためのものである

事業主貸700通信費700

車両費はガソリン代、オイル交換代、修理代、など車にまつわる費用です。1台の車を仕事でもプライベートでも使う場合、走行距離の割合などで家事按分します。これもいちいち記録していられませんから、税務署の指摘があった時に説明できる常識的な範囲で按分します。

取引: 年間車両費(1,000円)のうち30%が個人事業のためのものである

事業主貸700車両費700

このようにプライベート部分を「事業主貸」に分離しておいて、翌期首の開始仕訳で「元入金」と相殺します。

取引: 翌期首に元入金と相殺(個人事業主の開始仕訳)

元入金3,000事業主貸3,000




以上、 仕訳で説明する決算のやり方、という話題でした。決算=きつい・しんどい・面倒くさい、というイメージがありますが、小規模事業者の場合であれば半日もあれば済む作業です。特に日頃からしっかり経理をして月次の数字も見てきたという方であれば、さくっと完了できるものです。そうでない場合には、じっくり取り組むか手強いと感じたら早めに税理士に依頼されることをお勧めします。

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