【やさしい経理(6)】社会保険料を仕訳する【慣れるまで難しく感じるところです】

この記事は「社会保険料の支払に関する経理がややこしくてよく分かりません。基本的な所を教えてください」といった疑問に答えます。



社会保険とは

事業を始めると社会保険の支払と経理処理に悩むことになります。社会保険には、健康保険、介護保険、年金保険、労働保険などが含まれ、それぞれが別々の法律や制度で運営されており、管轄先や支払のタイミングも違っています。

このため複雑なことになっており、素人には訳が分からない世界になっています。一生サラリーマンなら特に気にする必要が無いのですが、事業を始めたのであれば、覚悟を決めて取り組むしかありません。

とはいえ、悩むのは通常最初の1年くらいで、慣れればただのルーチンになりますので、ご安心ください。まずはこちらの説明で概要を把握しましょう。





給与支払時に社会保険料を天引きする

役員や従業員の社会保険料は法律により一定の割合を会社が負担するルールになっています。逆に言うと会社は役員や従業員の社会保険料を部分的に払う義務があります。その割合は内容により以下のように決まっています。

  • 健康保険:役員や従業員と会社が保険料を半額ずつ負担
  • 介護保険:役員や従業員と会社が保険料を半額ずつ負担
  • 厚生年金保険:役員や従業員と会社が保険料を半額ずつ負担
  • 子ども・子育て拠出金全額を会社が負担
  • 雇用保険一般事業では9分の6(事業により異なる)を会社が負担残りを従業員が負担
  • 労災保険全額を会社が負担

役員や従業員が負担する金額は会社側で計算して、役員報酬や給与の支払時に天引きしていったん預かります。この仕訳パターンは次のようになります。

取引:給与を支払った

給与手当100,000普通預金77,800
預り金(所得税)4,200
預り金(住民税)5,000
預り金(健康保険)1,700
預り金(介護保険)700
預り金(厚生年金)9,100
預り金(労働保険)1,500

役員や従業員が負担する金額は「預り金」として差引き、残額を本人に支払うことになります。預り金はひとまとめにすると内訳が分からなくなり後で面倒なので、内容ごとに分けて仕訳します。このやり方は「摘要欄」に「給与5月分 厚生年金」などとメモ書きして、何の預り金か区別が付くようにします。



健康保険料の支払

健康保険は大手企業や一定の業種の場合は「組合健保」、その他の中小企業の場合は政府が管掌する「協会けんぽ」に加入するのが一般的です。ひとり社長で起業して従業員が無くても健康保険には加入します。

「協会けんぽ」の場合、加入手続きは年金事務所で行い、保険料の納付は納付書が送られてくるので、毎月10日までに支払います。または口座振替の申込をしておけば、わざわざ支払に行く手間が省けるので、多くの場合は口座振替が利用されています。

保険料の支払時には、従業員が負担する金額と会社が負担する金額を一緒に払い、次の仕訳をします。健康保険料と合わせて介護保険料(40歳以上の人のみ)も支払うため、金額は2つを合わせたものになります。

取引: 健康保険料の支払

預り金2,400現金4,800
法定福利費2,400

1行目の預り金が前月分の給与支払時に従業員から預かったもの、2行目の法定福利費は会社負担分の費用です。従業員と会社が半額ずつ負担します。



厚生年金保険料の支払

会社の役員や従業員は国の制度である厚生年金保険に加入します。加入手続きは年金事務所で行い、毎月20日頃に日本年金機構より送付される「保険料納入告知書」に記載された保険料額を支払います。こちらも口座振替を利用することもできます。

健康保険と同様に保険料の支払時には、従業員が負担する金額と会社が負担する金額を一緒に払い、次の仕訳をします。

取引: 厚生年金保険料の支払

預り金9,100現金18,200
法定福利費9,100

1行目の預り金が前月分の給与支払時に従業員から預かったもの、2行目の法定福利費は会社負担分の費用です。従業員と会社が半額ずつ負担します。





子ども・子育て拠出金の支払

子ども・子育て拠出金は、子育て支援の財源として徴収されるもので正確には保険ではなく、「税金」に近いものです。

健康保険と合わせて支払いますが、会社が全額負担となり、仕訳パターンは次のとおりとなります。

取引: 子ども・子育て拠出金の支払

法定福利費300現金300


労働保険(労災保険と雇用保険)の支払

労働保険は労災保険と雇用保険を合わせた総称です。ややこしいのですが、労働保険という保険がある訳ではありませんので、注意しましょう。

労災保険は、労働者の業務上または通勤によるケガ・疾病・障害・死亡に対して必要な保険給付を行う制度です。すべての労働者を保険対象としていて、1人でも従業員を雇うと事業者は労災保険に加入する義務があります。

役員は従業員では無いので、加入対象外となります。ひとり社長だけであれば、労災保険には加入できません。加入の手続きは雇ってから10日以内に労働基準監督署で行います。

一方、雇用保険は、いわゆる「失業保険」に代表される雇用の安定と就職の促進のために保険給付を行う制度です。加入者は31日以上引き続き雇用される見込みがあり、1週間の所定労働時間が 20 時間以上の従業員(契約社員やパート、アルバイトも含む)となっています。雇用保険も役員は加入対象外となります。加入の手続きは雇った月の翌月 10 日までにハローワークで行います。

労働保険の保険料は「年度更新」と言われるクセの強い方法が採用されていて、次の流れとなります。

  • 例年6月1日から7月10日までの間に概算で保険料を申告・納付する
  • 次の年の6月1日から7月10日までの間に確定申告して差額を精算する

つまり、最初に1年分の保険料を概算で払い、実際の保険料との差額を支払う(または還付を受ける)といったやり方になっています。さらに、同時に次の年の保険料を概算で払うので、全てをまとめて精算することになります。

労働保険は毎月保険料を払う訳でなない点にご注意ください。仕訳パターンは次の通りとなります。

取引: 労働保険料を概算で払った

前払費用1,200現金1,200

概算で払った金額はいったん「前払費用」とします。

取引: 7か月後に会社の決算を迎えた(決算整理仕訳)

預り金(労働保険)210前払費用700
法定福利費490

当期に従業員から預かって蓄積してきた預り金と当期分の前払費用を相殺します。差額は会社負担分の保険料です。

取引: 労働保険料の確定申告をして精算を行った

預り金160前払費用(前年分)500
法定福利費390現金(差額)50
前払費用(今年分)1,500現金1,500

1行目と2行目の仕訳が前年に概算払いした分の精算です。この例では労働保険の確定申告をしたら実際には50多かったということになります。

3行目は今年の概算支払分の仕訳です。これを毎年繰り返していきます。

毎月保険料を払わなくて良いのは助かりますが、考え方も仕訳も複雑なものになります。



個人事業主の社会保険料

個人事業主の場合は、国民健康保険や国民年金といった社会保険に加入することになりますが、これらの保険料はプライベートなものなので事業の必要経費とはなりません。個人の収入から支払うことになり、また以下の記事でも説明したとおり会社にした場合に比べて負担が大きくなりがちです。

社会保険料を節約するという目的でも「法人成り」(会社にすること)を検討する方も多いです。ただし本当に節約になるかどうかは個々の事情(事業内容や家族構成)によりますので、事前のシミュレーションをお勧めします。

また、何らかの事情があり個人事業主が社会保険料を事業用の銀行口座から払った場合は次のように仕訳します。個人用の銀行口座から払った場合は仕訳は不要です。

取引: 事業用の銀行口座から国民健康保険料を払った

事業主貸1,000普通預金1,000




以上、社会保険を仕訳する、という話題でした。社会保険に関する仕訳は様々な制度が混在しているため、仕訳の方法やタイミング、金額の考え方がそれぞれ異なり、やっかいなものです。慣れるまではその都度調べて対応することになりますが、やがて単なるルーチンとなりますので、そこまでは試行錯誤と我慢が必要です。

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