この記事は「2020年の年末調整が大きく変わったということですが、ウチの会社はどうしたら良いでしょうか?」といった疑問に答えます。
目次
「年末調整」が大変革
2020年は「年末調整」が大変革の年となっています。何故かというと、(1)法改正の数も多くかつ複雑であり、かつ(2)国税庁から無料で使える「年末調整ソフト」が公表されてペーパーレス化への対応を同時に考える必要もあるから、です。
法改正のポイント
(1)の法改正については主なもので以下のような項目があります。
- 給与所得控除と基礎控除の見直しにより控除額が変更に
- 所得金額調整控除という新しい制度の導入
- 基礎控除・配偶者控除等・所得金額調整控除の申告書が1枚に合体(正式名称:給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書)
- ひとり親控除という新しい制度の導入と寡婦控除の内容変更
結果として、2020年に必要となる申告書は原則として以下の3枚となっています。
- 令和3年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
- 令和2年分給与所得者の保険料控除申告書
- 令和2年分給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書
これに加えて住宅ローン控除の適用を受ける人は「給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書」も提出が必要です。
社会情勢への対応や納税者有利のための制度が多く、やむを得ないのでしょうが、一般の会社員だけでなく会社の人事や経理といった方へは事務負担の重いことになっています。3枚の申告書に漏れなく手書き記載し、ハンコを押して、証明書類を添付して会社に提出する必要があります。会社側では抜けが無いか確認して(そして抜けがあることも多い)、給与計算システムに手入力するということになります。
こうなりますと「源泉徴収」という考え方そのものが間違っているのではないか?アメリカのように会社員も確定申告するほうがむしろ簡単で良いのでは?と思えてきます。
無料で使える「年末調整ソフト」
ですが、それを言っても始まりませんから現実的になんとか省力化して生産性向上できないかということで、国税庁が「年末調整ソフト」なるソリューション(無料)を出してきました。パソコンやスマホに年末調整ソフトを入れるとペーパーレスで年末調整が自動化できるという夢のソリューションですが、現時点ではいろいろと問題があります。
まずITリテラシーの問題で、パソコンやスマホに年末調整ソフトを入れるというだけでもなかなかにハードルが高いです。インストールはスマホ版のほうが簡単そうですが、その後のデータ入力はスマホの小さい画面で行う必要があります。従業員がこれに耐えられるか?エラーが出てしまったときのサポートは誰が対応するのか?ちょっと大変です。
いちおう国税庁がサポート担当者を準備しているので、ここに聞いてもらうという手はあります。
年調ソフトヘルプデスク:
電話番号 | 0570-02-4563 (ナビダイヤル) | |
受付時間 | 9:00~17:00 | 10月1日~12月28日(毎日) 1月4日~9月30日(月曜~金曜(休祝日を除く)) |
保険会社の対応は?
次に年末調整ソフトを使う場合には、保険料控除のための証明書をデータとして添付する必要があります。このデータによる証明書の発行を保険会社が対応しているか?が次のハードルです。見たところ大手の生保などは対応していますが、それ以外は未対応が多いです。
私の場合控除対象の2社とも未対応で「紙」のみでした。この場合「そもそもダメ」ということになります。いろいろ悩む前にまずここをチェックすることをおすすめします。
ちなみに証明書のデータ取得は個別にWebサイトからダウンロードする方法に加えて「マイナポータル」経由で一括添付するという方法が用意されています。これも利用できれば便利ですが、マイナンバーカードが普及していませんし、たとえカードを持っていたとしてもカードリーダーや電子証明といった落とし穴があり、現実的に導入は無理という印象です。
給与計算システムの対応は?
最後に会社が導入している給与計算システムが「年末調整ソフト」が出力するデータの取り込みに対応していないと、結局自動化することができません。主な給与計算システムの公式サイトを見ましたが、対応しているかどうかはっきりしない(すなわち対応していないと考えられる)が多い状況です。
利用者が多い弥生給与やPCAがはっきりと「対応していません」としており、これらのシステムを使っている場合も「そもそもダメ」ということになります。唯一大蔵大臣が「対応しています」となっており先人を切っている形になっています。
SmartHRや人事労務freeeなどクラウド系はもともとそれぞれ独自のペーパーレス年末調整を打ち出しており、国の「年末調整ソフト」にはあまり気持ちが向いていないようです。これらの独自のペーパーレス年末調整のほうが現時点ではベターなソリューションであり、無理はないものと思います。
結論:従来どおりの方法で
それで結論としては、少なくとも2020年について従来どおりのやり方で乗り切るのが吉です。従来から「紙」を使っていたのであればそのまま「紙」です。ペーパーレス化は必須ではありません。
新しいもの好きで「年末調整ソフト」に挑戦してみたいという場合や、ひとり社長で全部自分でやるのでスマホひとつで済ませたい、という場合にはやってみる価値はあります。ただしその場合には事前に税務署に「源泉徴収に関する申告書に記載すべき事項の電磁的方法による提供の承認申請書」を紙で出しておく必要があるのでご注意ください。せっかくのペーパーレス化を台無しにする手続きですが、初年度1回だけ出す必要があります。
以上、2020年の年末調整にどう対応すべきか?という話題でした。菅政権に代わって役所手続きのデジタル化が進んでおり大変望ましい方向性ですが、当分の間は「過渡期」が続くでしょう。5−10年のスパンで見ればやがて官民で歩調が合い「年末調整ソフト」が浸透して紙が消えていくはずです。その前に源泉徴収制度自体が消える可能性もあると思っていますけど。
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