この記事は「相続税を申告するまでにどんな準備や手続きが必要ですか?生前から出来ることはありますか?」と言った疑問に答えます。
目次
相続税を申告納付するまでにやること
相続税の申告をしようとする場合その手順は手順そのものは比較的単純です。
まず申告で必要となる書類を集めます。次に集めた書類を使って相続財産の評価を行います。相続財産が評価できたら相続人で財産を分割する遺産分割協議を行い、合意した遺産分割協議書を作成します。最終的に相続税の申告書を作成し、これらの書類を添付して税務署に提出します。
簡単に言ってしまえばこれだけなのですが、一つ一つの作業が実際には大変重く厄介なものです。 以下にそれぞれの概要を説明しますので、何が厄介なのかご理解いただければと思います。
書類集め
(1)戸籍関係の書類
まず第一関門は戸籍関係の書類集めです。亡くなった方については出生から死亡までの連続した戸籍謄本と除籍謄本を取得する必要があります。 複数の市町村で戸籍を動かした場合には、過去に遡ってそれぞれの市町村役場から入手する必要があります。
電話で市町村に問い合わせれば確認してくれ郵送してくれます(手数料はかかります)が、これだけでもなかなか骨の折れる作業です。
次に、相続人全員について現在の戸籍謄本が必要です。ただし、亡くなった方と同じ戸籍の中にいる方については不要です。
さらに、「相続関係説明図」(いわゆる家系図)または「法定相続情報一覧図」という書面を作成します。これは自分でパソコンなどで作ることもできますが、弁護士や税理士といった代理人に作成してもらうこともできます。
「法定相続情報一覧図」は専門家に頼めば作成コストがかかりますし、法務局で認証してもらう手間もありますが、これを作ると他の戸籍関係書類を省略できるため、今後はこの利用が多くなると考えられています。
(2)財産関係の書類
財産の評価を行うための基礎となる各種書類を集める必要があります。財産によって集める書類が異なりますが代表的には次のものです。
土地・建物
- 固定資産課税明細書(市区町村)
- 登記事項証明書(法務局)
- 固定資産評価証明書(市区町村)
- 名寄帳(固定資産課税台帳)(市区町村)
- 公図・地積測量図(法務局)
- 住宅地図(図書館)
- 路線価図または評価倍率表(国税庁ホームページ)
- 建物図面(法務局)
預貯金
- 残高証明書
- 亡くなった方名義の通帳
- 亡くなった方の家族名義の通帳(家族自身の収入によるものは不要)
有価証券(上場株式等)
- 残高証明書
- 取引残高報告書
非上場株式
- 法人税申告書一式
- 会社の定款、株主名簿
- 登記事項証明書
生命保険・損害保険
- 保険証書
- 保険金の支払い明細
- 解約返戻金相当額証明書
債務と葬式費用
- 金銭消費貸借契約書、借入金の残高証明書
- 所得税の準確定申告書
- クレジットカードの利用明細
- 葬式費用の領収書、お寺への支払いメモ
場合により他にも色々あるわけですが、代表的なものでこれだけの書類を集めなければいけません。本当に大変です。 心が折れそうになりますね。
財産評価
財産評価とは財産の価値を金額で示すことですが、これが相続税の申告プロセスの中で最難関となるものです。なぜなら、財産の価値を「時価」で示す必要があるからです。
現金や預貯金であれば、残高がそのまま時価ですが、その他の資産では何が時価なのかがそもそも曖昧です。
上場株式であれば、株式相場で値段が決まっていますので、相続開始の日の相場で時価が出せます。ですが、非上場株式であればどうやって求めるのでしょうか?また、土地などは地価が用途によって数種類あり、どれを使うのかわかりません。
そこで、こういった厄介な財産評価をどうやって行うかが難しいポイントとなります。専門家同士でも評価が食い違うこともありますし、評価を間違えて後で裁判沙汰ということもあります。
このような難易度の高い財産評価については別の記事で解説します。
遺産分割協議
遺言書があれば財産はその通り分けるのが基本ですが、著しく不公平になって相続人で協議することがあります。また遺言書が無ければ、相続人による協議が必要です。これが遺産分割協議です。
協議を行ったら、遺産分割協議書を作成します。この書面は遺産の分け方について記載して相続人全員が合意して署名・押印したもので、相続税の申告書に添付するほか、銀行に提出して被相続人の口座凍結を解除するためにも使います。
被相続人の銀行口座はこの凍結解除までお金を引き出すことができなくなりますので、注意が必要です。
相続人の各人にどのように財産を分けるか、は最終的に各人が負担する相続税の金額に影響します。
申告書の提出と相続税の納付
相続税の申告書は相続の開始から10ヶ月以内に、被相続人の住所地の所轄税務署に対して、相続人が共同で1通提出します。相続人ごとに自分の住所地の税務署に申告するのではありません。私は昔この点を誤解していました。ご注意ください。
相続税の納付期限も相続の開始から10ヶ月以内です。現金で一括納付が原則ですが、困難な時は物納(財産を国庫に納めること)や延納(担保を提供して期限を伸ばすこと)といった手続きをとることもできます。
場合によっては、10ヶ月以内に相当な金額の現金を用意しなければならないため、充分事前に計画を立てる必要があります。
生前の準備が重要
以上のように、相続税の申告手続きにおいては、「どのような財産があるのか」が重要なポイントとなります。意外と多いのが、亡くなった方にどのような財産があるのか分からない、というパターンです。
「親族なら分かるでしょ」と思いがちですが、そうでもありません。特に意図的に隠した訳ではなく、証券口座を持っていることを家族が単純に知らなかったり、ということはよくあります。特に今はネット時代ですので、被相続人のネット銀行やネット証券の口座が分からないという可能性は高いでしょう。
また、逆に「うちには5億円あるよ」と言っていたお爺さんが亡くなったのですが、どこを探してもそれが見つからなかったということもあります。単なる冗談だったのか、探し漏れがあるのか、残された者としては非常に困る話です。
このように「立つ鳥後を濁さない」ために、生前に財産目録を用意しておくことをおすすめします。合わせて口座番号やパスワードなどもメモしておいて頂けると、家族は助かるものです。
さらに遺言書を残して、その財産をどう分けたいのかまで残しておいて頂けると完璧です。遺言なんて縁起でもないと思いがちですが、備えあれば憂いなし、ということです。
以上、相続税を申告納付するまでにやること、という話題でした。こういった準備を相続人が自分で全部やるというのはなかなか大変です。財産がシンプルで金額も少なく、相続人の人数も少なければ、まだ自分で出来る可能性がありますが、そうでなければ税理士や弁護士といった専門家にサポートをお願いする方が良いでしょう。費用はかかりますが、元は取れるはずです。
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