【やさしい相続税(9)】相続税と贈与税、どちらがお得か【お勧めのやり方を教えます】



この記事は「相続の時に財産を渡すのと、生前に贈与しておくのとでは、どちらの方が税金が安く済みますか?」といった疑問に答えます。



相続税と贈与税、どちらがお得か

財産を親世代から子供の世代に引き継ぐ方法には相続と贈与があるのですが、どちらがより少ない税金で財産を引き継ぐことが出来るのでしょうか?

それぞれの場合および組み合わせでどのように税金が変わるのか、事例を使ってシミュレーションしてみましょう。





シミュレーションの事例

資産8,000万円を配偶者と子(2人)に引き継ぐとします。相続の分割割合は法定分どおりとして、執筆時点(令和2年6月)の税法や税率が今後も変わらないとします。簡略化のため資産はすべて現預金とし、お金の時間価値や利回りは無視します。



相続が起きた場合(例1)

最初はなにも対策せずに単純な相続があった場合です。法定相続人が3人ですので、課税価格は8,000-(3,000+600×3)=3,200万円となり、各人の相続税は以下の通りとなります。

  • 配偶者 3,200万円 x ½ x 15% – 50 = 190万円
  • 子1人あたり 3,200万円 x ½ x ½ x 10% =80万円

従って、相続税の総額は 190 + 80×2 = 350万円 となります。

次に配偶者の税額軽減額を求めます。相続税の総額(350万円)を、財産の総額8000万円に配偶者の法定相続分1/2を掛けた金額(4,000万円)と1億6,000万円の大きい方(1億6,000万円)と配偶者が相続した財産の課税価格(4,000万円)の小さい方(4,000万円)で案分計算します。

350万円 x (4,000万円 ÷ 8,000万円)= 175万円

175万円が軽減されるため、配偶者の税額は190 – 175 = 15万円 となります。

子の税額は1人あたり 80万円 となります。

すなわち、家族全体の納税額は1,750,000円となります。



贈与により財産を引き継いだ場合(例2)

資産8,000万円のうち、4,000万円を配偶者に、2,000万円ずつ2人の子に一括贈与(暦年贈与)した場合で考えます。

その場合、各人の贈与税額は次の通りとなります。

  • 配偶者 4,000-基礎控除額110 = 3,890  ∴3,890×55%(一般税率)- 400 = 17,395,000円
  • 子1人あたり(仮に2人とも20歳以上とします) 2,000 – 110 = 1,890 ∴1,890×45%(特例税率) – 265 = 5,855,000円

特例税率とは、父母・祖父母など(直系尊属といいます)からもらった財産(ただしもらった人が20歳以上であること)に適用される税率です。一般税率とはそれ以外の人(配偶者や兄弟など)からもらった財産に適用される税率です。

すなわち、家族全体の納税額は29,105,000円となります。相続の場合に比べてずいぶん高いことが分かります。





贈与を時間をかけて行う場合(例3)

次は贈与の基礎控除額110万円の範囲内で10年間100万円ずつ3人に贈与し、残りの資産5000万円のうち2500万円を配偶者に、1250万円ずつ2人の子に一括贈与(暦年贈与)した場合で考えます。

まず最初の10年間は基礎控除額以下であるため、税額は発生しません。ただし、この場合最初からまとまった金額を贈与することを意図していたと税務署に認定されてしまうと、贈与税が課税される可能性があります。

このため、面倒でも毎年「贈与契約書」を交わして都度の贈与である証明が必要です。

そういった要件はクリアしたとして、11年目の贈与では各人の贈与税額は次の通りとなります。

  • 配偶者 2,500-110 = 2,390  ∴2,390×50%(一般税率)- 250 = 9,450,000円
  • 子1人あたり(仮に2人とも20歳以上とします) 1,250 – 110 = 1,140 ∴1,140×40%(特例税率) – 190 = 2,660,000円

すなわち、家族全体の納税額は14,770,000円となります。

最初に全額贈与してしまうのに比べて、半額ほどに圧縮できることになります。



時間をかけて贈与したのち相続が発生した場合(例4)

最後は贈与の基礎控除額110万円の範囲内で10年間100万円ずつ3人に贈与し、残りの資産5000万円のうち2500万円を配偶者に、1250万円ずつ2人の子に相続した場合で考えます。

10年間100万円ずつ3人に贈与していた場合で、残りの資産5000万円を相続した場合、最初の10年間は前例と同様に贈与税額は発生しません。

相続において法定相続人が3人ですので、課税価格は5,000-(3,000+600×3)=200万円となり、各人の相続税は以下の通りとなります。

配偶者 200万円 x ½ x 10%  = 10万円

子1人あたり 200万円 x ½ x ½ x 10% =5万円

従って、相続税の総額は 10 + 5×2 = 20万円 となります。

次に配偶者の税額軽減額を求めます。相続税の総額(20万円)を、財産の総額5,000万円に配偶者の法定相続分1/2を掛けた金額(2,500万円)と1億6,000万円の大きい方(1億6,000万円)と配偶者が相続した財産の課税価格(2,500万円)の小さい方(2,500万円)で案分計算します。

20万円 x (2,500万円 ÷ 5,000万円)= 10万円

10万円が軽減されるため、配偶者の税額は10 – 10 = 0 となります。

子の税額は1人あたり 5万円 となります。

すなわち、家族全体の納税額は100,000円となります。

最初に贈与をしておくことで、いきなり相続(例1)があるよりも95%も圧縮できることがわかります。



お勧めの考え方

以上の4つの例からわかることとして、原則として相続税は贈与税より安いことがわかります。これは財産の形成に貢献した家族を優遇する考え方から当然といえば当然です。

また、事前に贈与の基礎控除額の範囲で少しずつ贈与しておく、または贈与税が非課税となる特例措置(住宅取得等資金贈与の非課税など)を利用するなどして、資産を減らしておくと全体としての税額を相当圧縮することができます。

ですが、これは長期的な計画に基づいて行なっていく必要があり、急には対応できないということに注意が必要です。

最もお勧めの考え方は例4のように、基礎控除額の範囲で少しずつ贈与しつつ、自分で形成した財産を自分の為に使い、残った財産を相続する、というものです。自分で苦労して作った財産ですから、少額贈与をしつつご夫婦で楽しい老後を送るというのがベストです。





以上、相続税と贈与税、どちらがお得かという話題でした。上記の例は、非常に簡略化した条件でシミュレーションしています。実際の状況はもっと複雑ですので、ご自身の状況について早いうちから専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。


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