この記事は「個人事業主のままで行くか、法人成りするか、どちらが節税のメリットがありますか?」といった疑問に答えます。
目次
個人事業主と法人成りした場合の税金をシミュレーション
ひとりで事業を行う場合には個人事業主として行うやり方と、ひとり社長の会社として行うやり方とがあります。多くの場合はまず個人事業主として事業を始めて、事業が大きくなってきた時に会社を作って法人化することになります。
この会社を作ることを「法人成り」と言います。法人成りのタイミングは人それぞれなのですが、個人と法人では特に税金の金額が変わってくるので、どう違うのかを理解しておく必要があります。
今回は、ある事業について個人事業主である場合と法人である場合とで、その税金の金額がどのくらい違うかシュミレーションしてみたいと思います。比較する税金は法人税、消費税、所得税、住民税、事業税、といったものです。
かなり長い記事なので、お急ぎの方は最後の「まとめ」だけご参照頂ければ。
シミュレーションで使う事例
これらの税金はその業種や事業所の場所、社長の家族構成などで大きく変わっています。従って実際にはその都度状況に当てはめてシュミレーションする必要がありますが、今回は一例として次の条件で考えてみます。
- 事業の場所:埼玉県所沢市
- 家族構成:夫(プログラマー)41歳、妻(無職)37歳、子供12歳
- 固定資産:なし(賃貸マンション住まい)
- 年間売上高:1200万円
- 年間必要経費(費用)360万円、事務所の家賃72万円
- 個人事業主である場合には国民健康保険と国民年金に加入
- 法人である場合にはひとり社長の株式会社(資本金100万円)であり、協会けんぽと厚生年金に加入
「協会けんぽ」というのは中小事業者が加入できる健康保険組合です。また法人成りした場合には年金は厚生年金への強制加入となります。
また、簡略化のため上記の売上高と費用は毎年一定であるものと仮定します。
個人事業主の場合の税額シミュレーション
税額を求める前にまず国民健康保険料と国民年金保険料求めます。国民健康保険については埼玉県所沢市の定めるところにより次の通り計算できます。
国民健康保険料(埼玉県所沢市)の計算
医療給付費分+後期高齢者支援金等分+介護納付金分の合計額により求めることとされ、それぞれの金額は次のとおりを止めます。
(1)医療給付費分
所得割額 :前年の総所得金額等から基礎控除(33万円)を控除した額の7.2%
(12,000,000-3,600,000-720,000-330,000) x 7.2% = 529,200円
資産割額 :本年度の固定資産税(土地・家屋)額 x 15% = 0円
均等割額 :被保険者1人につき14,300円 ∴14,300×3人=42,900円
平等割額 :1世帯につき16,000円
529,200+0+42,900+16,000 = 588,100 < 610,000 ∴ 588,100円(100円未満切り捨て)
(最高限度額:610,000円)
(2)後期高齢者支援金等分
所得割額 :前年の総所得金額等から基礎控除(33万円)を控除した額の2.6%
(12,000,000-3,600,000-720,000-330,000) x 2.6% = 191,100円
均等割額 :被保険者1人につき11,000円 ∴11,000×3人=33,000円
191,100+33,000 = 224,100 > 190,000 ∴190,000円(100円未満切り捨て)
(最高限度額:190,000円)
(3)介護納付金分(介護第2号分保険料)(40歳から64歳までの国保被保険者)
所得割額 :前年の総所得金額等から基礎控除(33万円)を控除した額の1.5%
(12,000,000-3,600,000-720,000-330,000) x 1.5% = 110,250円
均等割額 :被保険者1人につき11,000円 ∴11,000×1人(夫のみ)=11,000円
110,250+11,000 = 121,250 < 160,000 ∴121,200円(100円未満切り捨て)
(最高限度額:160,000円)
(1)、(2)と(3)をあわせた額が年間の国民健康保険税額となります。
したがって、588,100+190,000+121,200=899,300円 となります。
国民年金保険料の計算
20歳以上60歳未満の学生・農林漁業者・自営業者・無職の方等(国民年金第1号被保険者)は、国民年金に加入することが義務づけられています。国民年金保険料は一律で、令和2年4月~令和3年3月分の国民年金保険料は、16,540円(月額)となっています。
従って夫と妻の分で、年額では16,540 x 2人 x 12ヶ月 = 396,960円 となります。
所得税の計算
次に所得税額を計算していきます。所得税額は課税総所得に累進税率を掛けたものです。
- 総所得金額:12,000,000-3,600,000-720,000 = 7,680,000円
- 所得控除額:基礎控除480,000(令和2年から)+配偶者控除380,000+扶養控除380,000+社会保険料控除1,296,260(=899,300+396,960) = 2,536,260円
- 課税総所得:7,680,000 – 2,536,260 = 5,143,000円(千円未満切捨て)
- ゆえに所得税額は、5,143,000× 20% - 427,500 = 601,100円
- また、復興特別所得税は 601,000×2.1% = 12,600円
- 合計した年税額は、 601,100+12,600 = 613,700円(100円未満切り捨て)
個人住民税
次に個人住民税です。個人住民税は、均等割と所得割の合計となり、次のとおり計算します。
- 均等割・・・一律5,000円
- 所得割=課税所得金額×10%-税額控除等
- 所得控除額:基礎控除330,000+配偶者控除330,000+扶養控除330,000+社会保険料控除1,296,260(=899,300+396,960) = 2,286,260円
- 課税総所得:7,680,000 – 2,286,260 = 5,393,000円(千円未満切捨て)
- ゆえに所得割は、5,393,000 x 10% = 539,300円となり
- 個人住民税の年税額は、 539,300+5,000=544,300 円となります
個人事業税(埼玉県)の計算
次に個人住民税です。個人事業税は、事業内容により税率が異なりますが、今回はプログラマーということで第3種事業の5%となります。次のとおり計算します。
- 課税所得金額=総収入金額-必要経費-繰越控除額等-事業主控除額(年290万円)
- 12,000,000-3,600,000-720,000-2,900,000 = 4,780,000円
- よって税額は、4,780,000 x 5%(第3種事業) = 239,000 円 となります。
個人消費税の計算
今回は全額仕入税額控除できた場合の原則課税計算で概算します。
- 預かった消費税 – 支払った消費税
- よって税額は、12,000,000 x 10% – (3,600,000+720,000) x 10% = 768,000円 となります。
個人事業主である場合の税負担額
以上から、今回の事例では個人事業主である場合の税負担額は、次の通りとなります。社会保険料の負担額と合わせて表示します。
- 税金の総額: 613,700+544,300+239,000+768,000=2,165,000円
- 社会保険料の総額:899,300+396,960=1,296,260円
法人の場合の税額シミュレーション
次に法人成りしてひとり社長の会社を作った場合に、税金の負担額がどのようになるか見ていきます。
こちらの場合もまず社会保険料の算定から始めます。簡略化のために役員報酬が月額50万円としてこれ以外の報酬はないものとします。この場合協会けんぽと厚生年金のそれぞれの支払額は次のとおり計算されます。
- 協会けんぽ(埼玉県): 29,000円(標準報酬50万円の場合の折半額。介護保険を含む)
- 厚生年金: 45,750円(標準報酬50万円の場合の折半額。妻は第3号被保険者で負担なし)
したがって、会社負担分の法定福利費の年額では (29,000+45,750) x 12 = 897,000円となります。社長個人の社会保険料も同額です。
消費税の計算
個人の場合は先に消費税を計算します。消費税については個人の時と同じです。
- 預かった消費税 – 支払った消費税
- よって税額は、12,000,000 x 10% – (3,600,000+720,000) x 10% = 768,000円 となります。
法人税の計算
次に法人税額を計算します。
個人の時と違って、役員報酬や社会保険料の会社負担額を損金に計上することができます。これにより所得を圧縮する効果があります。また消費税額は預かっているに過ぎませんので、所得からは差し引きます。したがって次のような計算になります。
- 課税所得は、12,000,000-3,600,000-720,000-役員報酬500,000×12-法定福利費897,000-未払消費税768,000=15,000円
- よって法人税額は、15,000 x 15% = 2,200円(100円未満切り捨て)となります
法人住民税(埼玉県所沢市)
次に法人住民税を計算します。法人住民税は埼玉県と所沢市とそれぞれ分けて、次のとおり計算を行います。
- 法人県民税(埼玉県): 均等割2万円+法人税額x1%
- 20,000+2,000 x 1% = 20,000円(100円未満切り捨て)
- 法人市民税(所沢市): 均等割5万円+法人税額x6%
- 50,000+2,000 x 6% = 50,100円(100円未満切り捨て)
- よって合計で、 20,000+ 50,100 = 70,100円となります。
法人事業税(埼玉県)
次に法人事業税を計算します。今回の例では資本金が小さい会社のため、所得割と特別法人事業税だけがかかりますが、次のとおり実際の税額はゼロ円になります。
- 所得割:2,000 x 3.5% + 特別法人事業税70 (=2,000 x 3.5%) x 30% = 0円(100円未満切り捨て)
法人の税負担額
以上から、今回の事例ではひとり社長の会社である場合の法人の税負担額は、次の通りとなります。
- 法人の税金の総額:2,200 + 70,100 + 0 + 768,000 = 840,300円
ですが、役員報酬を受けている社長について個人の所得税等が課されますので、次に社長個人の税負担額を求めていきます。
夫(社長)の所得税
役員報酬は月額50万円ですので年収は600万円です。これは会社から支払われた給料ですので所得税の計算上は給与所得控除を適用することができます。従って次の通りの計算となります。
- 総所得金額:6,000,000円
- 所得控除額:基礎控除480,000(令和2年から)+配偶者控除380,000+扶養控除380,000+社会保険料控除897,000+ 給与所得控除(収入金額6,000,000×20%+440,000円)= 3,777,000円
- 課税総所得:6,000,000 – 3,777,000 = 2,223,000円(千円未満切捨て)
- ゆえに所得税額は、2,223,000× 0.1 - 97,500 = 124,800円 となります
- また、復興特別所得税は、124,000×2.1% = 2,600円 となります。
- よって、税額は、 124,800+2,600 = 127,400円(100円未満切り捨て)となります。
個人住民税の計算
次に個人住民税です。個人住民税は、均等割と所得割の合計となり、次のとおり計算します。
- 均等割・・・一律5,000円
- 所得割=課税所得金額×10%-税額控除等
- 所得控除額:基礎控除330,000+配偶者控除330,000+扶養控除330,000+社会保険料控除897,000 + 給与所得控除(収入金額6,000,000×20%+440,000円)= 3,527,000円
- 課税総所得:6,000,000 – 3,527,000 = 2,473,000円(千円未満切捨て)
- ゆえに所得割は、 2,473,000 x 10% = 247,300 となり
- 年税額では、 247,300+5,000=252,300 円 となります
社長個人の税負担額
以上から、社長個人の税負担額としては、所得税と住民税の合計で次のとおりです。
- 個人の税金の総額:127,400 + 252,300 = 379,700円
社会保険料の個人負担額は会社と折半した金額の 897,000円となります。
まとめ
以上をすべてまとめて比較すると個人事業主である場合と、今回の事例のおいて法人成りしてひとり社長の会社にした場合では、次のような違いがあることが分かります。
個人事業主 | ひとり社長 | |
所得税 | 613,700円 | 127,400円(個人) |
法人税 | 2,200円(法人) | |
住民税 | 544,300円 | 70,100円(法人) 252,300円(個人) |
事業税 | 239,000円 | 0円(法人) |
消費税 | 768,000円 | 768,000円(法人) |
社会保険料 | 1,296,260円 | 897,000円(個人) |
この事例では、法人成りしてひとり社長となった方がかなり節税できることになり、有利と分かります。それぞれの状況により、どちらが有利になるかは変わってきますので、シミュレーションして確かめてみることが大切です。
シミュレーションはできれば税理士にお願いしてやってもらうのが良いです。税法も社会保険も毎年のようにルールが変わりますので、専門家にお願いしましょう。
もしまだ税理士が付いていなければ、税理士ドットコムのような無料のマッチングサービスを使って自分に合う税理士を探すことをお勧めします。他にあてが無いようでしたら、私にご連絡頂ければ幸いです。
以上、個人事業主と法人成りした場合の税金をシミュレーション、という話題でした。個人にしろ法人にしろ単に税額を安くするということではなく、「お金を残していく」という考え方が重要です。そうすることで事業の持続性を担保することができるからです。こういった観点からも「法人成り」について検討されると良いです。
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