この記事は「テレワークを導入して在宅勤務手当を支給したいのですが、手当の税務上の扱いはどうなっていますか?」といった疑問に答えます。
目次
在宅勤務手当の一部が所得税の非課税に
国税庁が2021年1月15日に発表したところによると、企業のテレワーク導入を後押しするために、在宅勤務手当を支給した場合にその一部を非課税に(所得税がかからないように)するということです。報道各社が報じています。
その元ネタとなった国税庁の発表は以下のものです。
「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」
これがどういうことなのか?少しわかりにくいので以下に解説します。
そもそも在宅勤務手当を支給していること
この話の大前提は「企業が在宅勤務手当を支給している」ということです。自分の知る限り在宅勤務手当を特段支給していない会社のほうが大多数なので、もし在宅勤務手当をそもそも支給していない会社にお勤めの場合は最初から関係ない話になります。
在宅勤務手当というのはコロナでテレワークになった従業員に対して支給する手当で、通信費や水道光熱費の補填という意味があります。支給している会社は日当200~300円くらいで出しているパターンが多いです。これは日によって出勤の場合と在宅の場合があるためです。これに対してずっと在宅勤務になっている場合には月額数千円の手当を支給している会社もあります。
いずれにしても現時点で在宅勤務手当を支給できているのは、有名な優良大手企業が中心です。テレワークに移行した会社でも「通勤していないから」という理由で通勤手当だけカットして、在宅勤務手当は支給しないというパターンも多く存在します。
ただ実際にはテレワークに移行しない(できない)会社も多く、テレワークに移行できているだけマシで、手当など高望みしても仕方がないというのが従業員の本音かと思います。
企業の側から見た問題点
一方、企業の側から見ると在宅勤務手当を支給したくても支給できない(支給がためらわれる)という状況がありました。その理由は在宅勤務手当の税務上の扱いがいまひとつ曖昧ではっきりしていなかったからです。
従業員に支給する手当は基本的に「経済的な利益」なので「給与」と同じ性格です。つまり在宅勤務手当も給与の一部として所得税を課すというのが基本的なスタンスのはずです。
ところが、在宅勤務手当が業務の遂行上必要不可欠なものとすると、経済的な利益と考えて所得税を課すことに矛盾が出てきてしまいます。従業員としても別に好きで在宅勤務している訳ではない(少なくとも建前上は)ので、手当に課税されるのはいかがなものか?となる訳です。
実際に業務の遂行上必要不可欠な通勤のための「通勤手当」は一定部分が非課税となるルールがあり、大抵の人の場合は交通費の支給は非課税になっています。(詳しくは以下の記事ご参照ください)
こうして会社の立場からみれば在宅勤務手当が課税なのか非課税なのかよく分からないから「支給するのを止めておこう」となるのです。従業員の立場では「課税でもいいから払ってよ」となるのですが、会社の経理税務担当者にとっては頭が痛い悩ましいことです。
国税庁がルールを明確化
ですが、今回国税庁がこの問題に裁定を下してきました。課税非課税のルールを明確化したのです。
詳しくは上述のFAQをご確認頂ければと思いますが、ざっくりの要点としては以下の通りです。
- 従業員が在宅勤務のために必要な機材を買った場合にその代金を会社が負担したときは、その領収書などを会社に提出して非課税となる
- 通信費(インターネット代など)はその料金を在宅勤務日数で按分した金額のさらに1/2を非課税とみなす。ただし料金明細を会社に提出する必要がある
- 水道光熱費はその料金を仕事スペースの面積と在宅勤務日数で按分した金額のさらに1/2を非課税とみなす。ただし料金明細を会社に提出する必要がある
- こういった計算や領収書・利用明細なしにざっくり支給した在宅勤務手当は課税となる
特に通信費と水道光熱費は家事(プライベートの利用)とそもそも混然一体なわけで、ルール化すればこうなってしまうのでしょうが、正直面倒くさい限りです。会社側としても結局のところ課税・非課税の分別計算が結構大変です。
課税・非課税を分ける計算の具体例
例えば通信費が7600円、水道光熱費が10000円だったとして、月30日のうち20日が在宅勤務で仕事スペースが住居全体の20%とします。それで会社から支給される在宅勤務手当が日額250円とすると、課税部分と非課税部分は次のように計算されます。
- 在宅勤務手当=250円x20日=5000円
- 通信費非課税分=7600 x 20/30 x ½ = 2534円(1円未満切り上げ)
- 水道光熱費非課税部分=10000 x 20/30 x 20% x ½ = 667円(1円未満切り上げ)
- よって課税される手当=5000 – 2534 – 667 = 1799円
まあ、面倒です。従業員一人ひとりについて毎月この計算をするのか?と。事務負担が尋常ではありません。ですが、こうすることで5000円の手当のうち1799円が給与として課税され、3201円が非課税であることがはっきりします。
在宅勤務手当を支給する企業が増えて欲しい
これにより「企業のテレワーク導入を後押し」できるのか?微妙な感じもしますが、この明確化がひとつのきっかけとなって少なくとも「在宅勤務手当を支給する企業を増やす」ことに繋がってくれれば良いと考える次第です。
現時点では通勤手当だけ先にカットして、その後何も手当を支給していない会社が多いので、そこが是正されることがファーストステップと考える次第です。そうこう言っているうちにコロナが終息してくれるのが一番良い話ではありますけど。
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