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働き方改革の自己矛盾
「働き方改革」が言われて久しいです。最近ではこれをキーワードにした各種セミナーや売り込みもひと段落した感があります。
当初労働者をを解放するような響きをもって喧伝されたものの、実際にはそうなっていないね、というほころびが各所に見えだしました。
例えば、働き方改革だから午後7時で消灯し、それ以降は暗がりの中でサービス残業しているとか、働き方改革だから一般社員は定時で退社し、それ以降はマネージャーが残り仕事をこなしているとか、「ん?何それ」という事例が散見されます。
本当の趣旨が「腹落ち」しないまま、形式的な制度だけが入ってしまった結果でしょう。
その中でも自分が一番腑に落ちないのが、働き方改革関連法案の一つである「労働安全衛生法66条の八の三」です。
労働安全衛生法66条の八の三とは
法律の条文を引用しますと、次のように規定されています。
第六十六条の八の三 事業者は、第六十六条の八第一項又は前条第一項の規定による面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者(次条第一項に規定する者を除く。)の労働時間の状況を把握しなければならない。
これは何を言っているのかというと、施行規則による補足から、次の通りと分かります。
- 従業員は何時から何時まで会社の仕事をしたのかを記録して提出しなければならない
- 記録の方法は客観性が担保される方法(タイムカードの打刻のような)でなければならない
- 対象となる労働者は職位に関わらず、高プロ制度対象者以外のすべての従業員(裁量労働者を含む)である
「大きなお世話です」という話です。
労働安全衛生法の施行でかえって仕事が増える羽目に
この法律が施行されたことにより、これまで割と自由に仕事して、しっかり会社に貢献してきた裁量労働者もタイムカードの打刻かそれに類するようなマイクロ管理を求められるようになりました。
もともとこの立法の主旨は、ブラック職場で働く従業員の健康と安全を守るべく、国が企業に規制をかけることだ、というのは理解できます。しかし、ちょっとやり過ぎなのではないか?という印象があります。
時間給ではなく結果に対する報酬で働くタイプの人間にとっては、マイクロ管理を求められるのは迷惑以外の何者でもなく、むしろ管理作業が増えてしまった結果となっています。
高プロ制度が導入されればこの管理対象から外れるので、管理作業から解放されますが、現状では高プロ制度はハードルが高すぎてほとんどの企業では未導入という状況です。私が働く企業でも導入されていません。
「社畜」前提は正しいのか?
結果として、全ての会社員がタイムカードの打刻かそれに類する時間の記録を強いられているという訳です。この記録作業自体にも時間がかかり、ひとつ仕事が増えたようなものですから、その分仕事時間が長くなったり、他の仕事ができなくなったりします。
まさに「本末転倒」です。
この法律の立法背景には、日本の会社員は社畜である、という前提があるようです。かわいそうな社畜を守ってあげようということでしょう。
たしかにそういう状況の方も多いのでしょうが、私の周りを見る限り、ホワイト企業で自律的に仕事して貢献している人もたくさんいます。こういった企業の人事部が「義務だから」ということで真面目にマイクロ管理を求めた場合、結構な生産性のロスになってしまいます。
労働安全衛生法66条を改正してほしい
以上のことから、労働安全衛生法66条の八の三に規定する「労働者」からせめて裁量労働者を除外してほしい、もしくは労働者自身の選択により適用できるようにして欲しいと思っています。自分にとって必要ないと思えば、辞退できるように法律を改正してほしいのです。
自らの意思でマイクロ管理を止めた結果として、働きすぎてしまい、健康を害したとしてもそれはその人の自己責任でしょう。働き過ぎが心配されたり、自己責任がきついという方は、自ら進んで管理対象者となれば良いのです。
以上、働き方改革の労働安全衛生法の改正で余計な仕事が増えてしまった件、という話題でした。従業員の健康を守るため!と称して、従業員の副業の状況まで根掘り葉掘り聞いてくる会社もあるようです。そうなるともうプライバシーの侵害案件という様相を呈してきます。会社に詮索の口実を与える困った法律です。