先日とある業務のコンサルティングをしておりまして、「ばらつき」の恐怖を味わいましたので、メモしておきたいと思います。いわゆるバックログや待ち行列に関するニッチな話題です。
バックログまたは待ち行列のコントロール方法
目次
今回コンサルした業務について
この業務はお客様からリクエストを頂いて、処理して、次工程へ渡す、という典型的なオペレーションです。数式で表すなら、
Output = f(Input)
でしょうか。お客様からのリクエストがInputです。これは電話やメール、そして今どきですがFAXでも入ります。これを処理するチームが十数名いまして、リクエストの処理結果を様々な後工程の部署へ転送しています。コールセンターであり、業務センターであり、そういった特徴があります。
それで何が「ばらつく」のかというと「Input」のところです。Inputの件数が毎日大きく上下変動するのです。昨日1日で170件のInputがあったところ、今日は1日で250件のInputがあります。一日で80件も違います。こういうInputの50%程度の変動が頻繁に起きる業務です。
恐怖の「処理残」
この結果なにが起きるかというと、「処理残」(バックログまたは待ち行列)の蓄積が起きます。処理の積み残しが発生し、後工程へ渡せませんので、処理を待っているお客様からはクレームを受けます。とんでもない大クレームです。
処理残を蓄積させないためには、当然処理能力を増やせば良いのですが、一方で業務のコスト削減という要請もあり、コストをあまり増やすことなく処理残をほどほどに制御するにはどうしたら良いか?という最適解を求める話となります。
シミュレーションによるアプローチ
こういった場合、Excelを使ってシミュレーションしてみると問題の所在や対処方法の発見に有効です。
ExcelにはRANDBETWEEN(数1, 数2)という便利な関数があります。数1と数2の間の数値をランダムに発生させることができます。今回の場合、過去の実績からInputが170件から250件くらいの間で変動すると分かっていますので、
RANDBETWEEN(170, 250) でInput数を模擬的に表現します。
この模擬的なInput数から処理能力(200件)を引いた結果が「処理残」になります。処理残がプラスの数値であれば、翌日へ持ち越しになりますので、翌日のInput数に加算されることになります。もし、処理残がマイナスであれば、処理残なしという意味ですので、加算される数値は「0」となります。
こうして100日分の動きをシミュレーションしたものが下図です。見て分かるとおり、処理残が爆発してしまいます。処理能力を下回るInput数の日も多いのですが、ひとたび蓄積し始めると手がつけられなくなります。
この原因は処理能力不足ですが、処理能力をどのくらい持てば、ビジネス上制御できていると言えるでしょうか?試しに処理能力を205件にしてみると次のような感じになります。
かなり改善されました。たった「5」だけ処理能力を加えただけで大きく様子が変わることが分かると思います。ですが、ちょっと心もとない感じです。では処理能力を「210件」とするとどうでしょうか。
今度は完全にコントロール出来ています。コスト削減との兼ね合いですが、処理能力を「10」(つまり5%)アップさせることができれば、処理残の問題は制御することができそうです。
では、同じ処理能力210件で、Input数の変動範囲を170件から270件まで、20件上ぶれさせたら、どうなるでしょうか。このようにまた処理残が爆発してしまいます。
まとめ
様々な業務でInput数では一定ではないでしょう。コールセンターにしろ、銀行の窓口、レストランの注文など、Input数が変動する「ばらつき」との戦いは避けることが出来ません。多かったり少なくなったりするのが普通です。
そういう場合に、リーズナブルなコストでInputをさばき、待ち行列を作らないようにするにはどうしたら良いか?上記のシミュレーションから次の仮説が成り立つでしょう。
- 変動のパターンを知ろう。最大・最小がどのくらいで変動するのかを理解すること
- 処理能力は最大・最小の中央値を目安に設定しよう(上記の例では(170+250)/2 = 210件)。理論的にはこれで制御できるはず
- もし現状の処理能力がこれに足りなければ、トレーニングや業務手続の簡略化などで補えないか検討しよう。直ぐに人を追加採用しようとしないこと(高くつくから)
- Input数の上ぶれが予想されるなら、そのような場合に一時的に処理能力を増強する方法を検討しよう。(普段その処理をやっていない管理職の人や別部署の人に参加してもらう等)
以上、ばらつきとの戦いをシミュレーションで探る、という話題でした。「ばらつき」はサイエンスです。下記の書籍なども参考にどうぞ。(画像をクリックするとアマゾンの商品ページに飛びます)
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