この記事は「借りている賃貸物件のオーナーチェンジが発生しました。何か気にすることはありますか?」といった疑問に答えます。
目次
源泉徴収義務とは
源泉徴収とは給与や報酬を個人に対して支払うときにその支払者に所得税の一部を前納してもらおうという制度です。本来なら給与や報酬をもらったほうが納めるのが筋ですが、給料を払う人数よりもらう人数が多いので、「払うほうに納めてもらうほうが確実」というどちらかと言えば国側のロジックにより成り立っています。
給料をもらうほうも確定申告という手間が省ければそれはそれでありがたい話ではありますが、納税意識が薄れてしまうという副作用もあります。
それで、いったい誰が源泉徴収をする義務があるのか?というと、普通は社員を雇用している事業主や法人ですが、それ以外にも以下のような場合に義務者に該当するので注意が必要です。
- 原稿料や講演料等を支払ったとき
- 弁護士や税理士等に報酬・料金を支払ったとき
- 司法書士等に報酬・料金を支払ったとき
- 外交員等に報酬・料金等を支払ったとき
- ホステス等に報酬・料金を支払ったとき
- 専属契約等で契約金を支払ったとき
- 広告宣伝のために賞金等を支払ったとき
- 非居住者等から土地等を購入したとき
- 非居住者等に不動産の賃借料を支払ったとき
これらのうち1~7については割とよく知られたもので、間違えは少ないかと思いますが、注意すべきは8と9の「非居住者」に関するものです。
特に「非居住者等に不動産の賃借料を支払ったとき」について危険ですので、以下に解説します。
非居住者が賃貸人の場合の源泉徴収義務
なぜ「非居住者等に不動産の賃借料を支払ったとき」が危険なのかといいますと、事務所などの不動産を賃貸契約したとして、最初からその大家さんが非居住者であることが分かっていれば「源泉徴収する必要がある!」と気が付く(少なくとも顧問税理士が)のですが、賃貸契約の途中でオーナーチェンジが発生し、大家さんが居住者から非居住者に変わったときに「気が付かない」からです。
通常の不動産賃貸契約では、契約時に大家さんが誰なのかどこにお住まいなのか分かります。名前が日本人で住所も日本なら居住者と考えられますから、源泉徴収は必要ありません。
ところが賃貸契約の途中で賃貸人が物件を売却してしまう(いわゆるオーナーチェンジ)ということはそれほど頻繁ではないにしても、ままあり得ます。最近だとアジアの方がオフィスビルを買ったりしていますよね。この場合、間に入っている不動産業者から詳しい情報が入らないことがあります。
事情を分かっている不動産業者なら新しい賃貸人の名前・住所などを伝えて「非居住者なので来月から源泉徴収してください」などと言ってくるでしょうが、そういったことは稀でしょう。多くの場合は新しい賃貸人の名前くらいしか伝えてきません。
こうして非居住者が賃貸人であることに気が付かないと、知らない間に「源泉徴収義務違反」ということになってしまうのです。
賃借人(あたな)が具体的にやること
源泉徴収義務違反にならないためにどうするか?以下のアクションが必要です。
仮にオーナーチェンジが発生して新しい賃貸人の名前が外国人の名前だったら、非居住者かどうか確認することです。不動産業者さんに大家さんの住所を確認します。
住所が外国なら非居住者として源泉徴収を行うことになります。税率は20.42%です。仮に賃料が10万円なら20,420円を差し引いて残りを不動産業者に払います。不動産業者もこんな話は知らないはずですので、あらかじめ説明しておく必要があります。
徴収した源泉税は原則として支払月の翌月10日までに「非居住者・外国法人の所得についての所得税徴収高計算書」という納付書を使って納付します。この納付書は税務署にストックされています。
極めて面倒ですが、もしオーナーチェンジにより非居住者が大家さんになってしまったら、このような手続きが必要となります。
源泉徴収しないとどうなるか
自分が源泉徴収義務者であることに気が付かずにうっかりスルーしてしまったらどうなるでしょうか?
そのまま放置した場合、税務調査があったときに源泉所得税の不納付を指摘されることになります。その結果、本来納付すべきだった源泉所得税に加えて、不納付加算税という罰金、さらに延滞税という利息の支払も求められてしまいます。
不納付加算税は税務署の指摘で納める場合は源泉所得税の10%、自主的に納める場合は源泉所得税の5%です。ただしその金額が5000円未満なら免除です。また毎月払っているのにうっかり今月だけ忘れたような場合も免除になります。
延滞税は2か月までなら年利2.7%、2か月を超えると年利9.0%に跳ね上がります(記事執筆時)。
不納付に気が付いた時点で不動産業者と大家さんに説明をして、これまでの源泉所得税分を次月以降の支払時にまとめて差し引かせてもらい、自主的に納付するのが吉です。不納付加算税と延滞税については自分のミスですから、負担するより仕方ないでしょう。
単に知らなかっただけで、自分のミスといわれるのも悔しい話ですが、現実的にはこのように対応せざるを得ないでしょう。普段から税理士が付いていれば防げた問題かもしれません。心配な方は税理士に相談を!
以上、賃貸不動産の大家さんが代わったら注意すること、という話題でした。この手のニッチなルールは知らないのが普通ですが、国からすると「知らないほうが悪い」となって、水掛け論になりがちです。非居住者が絡んだ場合にこういった変則ルールが出てきやすいので、注意が必要です。
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