この記事は「給与や賞与の支払を仕訳する方法を教えてください。経理として知っておくべき給与関係の知識も教えてください」といった疑問に答えます。
目次
給与・賞与を仕訳する
会社であればその役員や従業員に給与を支払うのが普通です。給与計算はそれだけで一冊のい本になるくらい奥が深いものですが、自ら手計算で行うというよりは、給与計算ソフトを使ったり、それなりの人数規模があれば社会保険労務士事務所などに外注したりするのが一般的です。
最近ではクラウドシステムでも給与計算を扱うものが出ており、かつ会計システムとも連動され仕訳が自動で行われますので、以下の記事で紹介したようなシステムを導入するというのが現実的な最適解です。
ですが、実際の現場ではまだまだ給与計算ソフトを使って数字を出し、それをもとに仕訳入力するということが行われていますし、小規模なところは全部手計算という場合もありあえます。このような場合は基本的な所を理解しておく必要があります。
以下に給与の支払をそれに関連した話題について説明します。
給与(役員報酬)の支払
一般に給与として支払う金額は、基本給に各種手当を加えた総支給額から税金や社会保険料などの控除額を差し引いた差引支給額となります。この総支給額や控除額を決めるのが上述の給与計算で、計算の結果がすでに出ている前提で考えます。
この場合、経理で行う仕訳はシンプルなものであり、仕訳パターンは以下のとおりです。
取引:給与を銀行振り込みで支払った
給与手当 | 1,000 | 普通預金 | 800 |
預り金 | 200 |
ここで給与手当は「総支給額」、預り金が「控除額」です。給与手当には残業手当や通勤手当のような各種手当が含まれ、預り金には税金や社会保険料などの天引きが含まれています。
また法人の役員報酬の場合でも基本的に同じ仕訳パターンですが、従業員の給与と区別して「役員報酬」の勘定科目を使います。
取引:役員報酬を銀行振り込みで支払った
役員報酬 | 1,000 | 普通預金 | 800 |
預り金 | 200 |
さらにボーナスの場合も同じ仕訳パターンですが、通常の給与と区別して「賞与」の勘定科目を使います。
取引:ボーナスを銀行振り込みで支払った
賞与 | 1,000 | 普通預金 | 800 |
預り金 | 200 |
役員報酬の決め方
役員に対する給与のことを役員報酬と言います。ひとり社長の会社では自分が役員ですので、自分で自分の役員報酬を決めるということになります。
従って、金額は自由に決められるのか?というと自由に決められますが、法人税法の規定で自由に金額を上下させると一定金額を会社の経費(損金)に認めません、ということになっています。経費に出来ないのであればあまり意味が無く、結果的に「自由に決めることはできない」というのと一緒です。
「自分ひとりの会社でもダメなの?」と思われると思いますが、みんなそういうルールで動いています。
では、どうやって役員報酬を決めるのか?というと、通常は次のように決めます。
- 売上や利益の規模から「相当な金額」にする。不相当に高額な金額にしても会社にお金が残らなければキャッシュ不足で倒産などリスクがありますし、結局個人の所得税を払うことになり、あまり意味がありません。
- 事業年度開始の日から3ヶ月以内に株主総会を開催して役員報酬を決めて、さらに1ヶ月以内(または会社設立の日から2か月以内)に税務署に届け出る。届出ないと経費として認められません。またその際には役員報酬を決議した株主総会の議事録を添付する必要があります。
役員報酬額については「ゼロ」とすることも可能です。実際、起業時には報酬をあえて貰わないという人もいます。ただし、事業年度の途中で増やしても経費に認められないので、原則として1年間「ゼロ」のままとなります。
株主総会については、ひとり社長でも開催するのか?というと開催する必要があります。ただし、実際には形式的に議事録を作成するだけ、となります。株主総会議事録のテンプレートは以下の「Knowhows(ノウハウズ)」から無料でダウンロードできますので、参考にしてください。
また、今回のコロナ禍のように売上が急減して急遽役員報酬を減らしたい、という場合がありえます。このように経営状況が著しく悪化した場合には、役員報酬の減額は税務署に届け出ることで認められます。逆に言うと、多少の売上の増減では役員報酬の金額は変えることができず、同額のまま1年をおくるということになります。
通勤手当の支払
従業員に支払う各種手当の中でも「通勤手当」の扱いについては注意が必要です。通常各種手当は従業員に経済的な価値を提供しているので、名称がどうあれ「給与」と同等と考えられて所得税の課税対象となります。ですが、通勤手当だけは会社に出社するための必要な費用に過ぎず、給与と同等と考えるのは無理があります。
そこで、通勤手当のうち一定の金額は所得税が「非課税」ということになっています。この扱いの違いに注意しましょう。
具体的には、通勤手当は給与の一部として支給されますので、仕訳パターン自体には変化はありません。総支給額の中に通勤手当が含まれているだけです。
問題になるのは「年末調整」のときです。年末調整では従業員の正確な所得税額を算出しますが、その際に非課税とされる通勤手当を含めないようにしなけばいけません。
従って、課税される通勤手当を支給するときは、あらかじめどの部分が課税の金額なのか分けて仕訳しておくと良いです。例えば次のように仕訳します。
取引:課税通勤手当を含む給与を支給した
給与手当(課税) | 900 | 普通預金 | 800 |
給与手当(非課税) | 100 | 預り金 | 200 |
非課税となる通勤手当の金額は以下の記事で説明したとおり法律で決まっており、これが判断基準となります。こちらの記事で説明しているとおり、平成28年に法律が改正されて、非課税となる通勤手当が引き上げられたばかりです。
なお、給与計算システムを使っていれば、自動判定されて所得税額が計算されますので、経理担当者が気にしておく必要はありません。
福利厚生費とは
給与関係の経理でややこしいのが「法定福利費」と「福利厚生費」の違いです。
法定福利費とは、文字通り法律で定められて会社の負担が強制されている社会保険料などを指します。健康保険料や厚生年金保険料は法律により会社が半額を負担しますので、それが法定福利費です。
一方、福利厚生費は法律で決められた訳ではないのですが、社員全員を対象とした「業務以外」のことに使う費用をいいます。例えば、忘年会や新人歓迎会、運動会などのイベント費用が該当します。
従業員が経済的価値を受けるものであっても、このような福利厚生費なら給与とは考えず、所得税が非課税となります。
ただしそういうイベントならいくらでも良いかというと、そうではありません。特に食事補助を行う場合は、会社の負担額は従業員1人あたり3500円以下であり、従業員の負担が半額以上でないと所得税が非課税になりません。
ちなみに、社内の役員や出張者など特定に人だけを接待(飲み会など)した場合の費用を会社が払う場合は「社内交際費」として扱われ原則として経費(損金)とすることはできませんが、執筆時はデフレ対策の特例で中小企業なら年800万円まで経費(損金)として認められています。こういった扱いも社会情勢によって毎年のように変わるので、注意しておく必要があります。
個人事業主の家族への給料の支払
個人事業主の家族が仕事を手伝っていて給料を支払うということがあります。 このような場合は青色申告を選択していることを条件として給与が必要経費と認められます。
白色申告の場合には、支払った給与を必要経費にすることはできませんが、代わりに専従者控除と言われる所得控除が認められます。事業主の配偶者であれば最高86万円が控除されます。
ですが、一般的には青色申告を選択して事前に専従者の届出を行い、専従者給与の全額を必要経費とする方が有利です。青色申告の個人事業主が家族に給料を支払う場合は次の仕訳パターンとなります。
取引:個人事業主が専従者に給与を支払った
専従者給与 | 1,000 | 普通預金 | 800 |
預り金 | 200 |
「専従者給与」という勘定科目を使って、それと分かるようにしておくことがポイントです。それ以外は普通の給与と同じ仕訳です。
なお、家族でも専従者になるには条件があり、学生や他に職業がある人はなれません。また、6ヶ月以上継続して仕事を手伝っている実態が必要となります。
また支給する金額も仕事内容に対して「相当な金額」である必要があります。あまりに高額な給与は認められませんので、注意しましょう。
〇〇万円の壁
給与の経理に関連した話題として「○○万円の壁」について説明します。経理担当者は従業員から質問を受けることがあるので、備えておきましょう。
良く言われる「壁」として、「103万円」、「150万円」、「106万円」、「130万円」の壁があります。
- 103万円・・・超えると自分に所得税がかかる
- 150万円・・・超えると配偶者の所得税が増える
- 106万円・・・超えると自分で社会保険料を払う可能性がある
- 130万円・・・超えると扶養から外れ自分で社会保険料を払う
以下にそれぞれ説明します。なお執筆時点の法令に基づいており、将来変わる可能性もあります。
まず、自分の給与が103万円を超えると課税所得が出てしまい、所得税がかかります。給与が基礎控除38万円(2019年まで)と給与所得控除65万円(2019年まで)を合計した103万円を超えると給与所得があるので所得税がかかります、という話です。
2020年から2400万円以下の所得の場合、基礎控除額は48万円にアップされ、給与所得控除は55万円にダウンされるので、結果的には「103万円の壁」はそのままとなります。ややこしいですね。
150万円の壁は、自分ではなく配偶者の所得税に関するものです。平成30年から登場した制度で、配偶者の年収が150万円以下の場合は、納税者が38万円の配偶者控除を受けられる、というものです。つまり家族全体としての「壁」です。
例えば、妻の年収が150万円以下なら、夫の所得計算で38万円の配偶者控除を受けることができます。150万円を超えても夫は配偶者特別控除(妻の年収が多くなると徐々に控除額が小さくなる)を受けられますが、夫の年収が1000万円以下である必要があります。夫の年収が1000万円を超えていればそもそも配偶者特別控除は受けることができません。
106万円は社会保険への加入義務の話です。1ヶ月の賃金が8.8万円を超えると(つまり年間では1,056,000円)パートやアルバイトでも勤務先の社会保険に加入となる可能性があり(場合により異なります)、健康保険料や厚生年金保険料の支払が必要となります。当座の手取り額が減るので「壁」と言われますが、将来受け取る年金の額は増えますし、必ずしも悪い話ではありません。
130万円も社会保険の話ですが、年収が130万円を超えると家族の扶養から外されてしまうので、必ず自分単独で健康保険や厚生年金に加入することになります。これも保険料の負担がかかりますが、自分自身の将来の保障を考えると悪い話ではありません。
以上、給与・賞与を仕訳する、という話題でした。給与は暮らしに影響が大きいものであり、その分様々な制度が入り組んでいて初めて経理に携わる人にとってはなかなか分かりにくくなっています。給与計算や会計のシステムにお任せするのが現実的ではありますが、それでもその裏側で起きていることは一通り知っておくと仕事しやすいものです。
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