先日行われた東京国税局による消費税軽減税率説明会で、「中小事業者向けには計算の特例があります」と聞き、「えっそうなの?」となってしまいました。恥ずかしながら知りませんでした。2019年10月より開始となる消費税軽減税率の中小事業者向け特例計算について、整理しておきます。
目次
特例は売上と仕入の計算それぞれにある
中小事業者向けということで「税率ごとに区分することが困難」ということが前提になります。10%と8%が混じってしまって分けられない!という訳です。この混じったものが売上の場合と仕入の場合で、次の2つの特例があります。
- 売上税額の計算の特例
- 仕入税額の計算の特例
売上税額の計算の特例
こちらは売上が混じっていて分けられない場合です。特例計算の対象となるのは、基準期間における課税売上高(消費税が課税される売上高)が5,000万円以下の中小事業者です。基準期間というのはほとんどの場合、前々事業年度のことです。例えば、平成31年4月から1年の事業年度とすると、平成29年4月から平成30年3月までの事業年度の課税売上高のことになります。個人事業主なら平成29年(暦年)の課税売上高が5,000万円以下なら平成31年の消費税計算においてこの特例が使えることになります。
なお、特例の使用にあたって、特に届出したり承認を受ける必要はありません。
計算方法は、課税売上高のうち、一定の割合を掛けたものを軽減税率の売上高にして良い、というものです。混じってしまって区分できないなら、簡便的に割合を掛けて求めてください、ということです。
その割合をどうするのか、というと、次の3パターンがあります。
(1)仕入のほうは区分できる卸売・小売事業者の場合
軽減税率対象項目の仕入額 ÷ 仕入総額
要は、仕入の割合をそのまま売上の割合として使う、という考え方です。
(2)仕入のほうは区分できるそれ以外の事業者の場合
10日間の軽減税率売上高 ÷ 10日間の総売上高
通常の10日間だけなんとかサンプル的に売上を区分してみてその割合を使う、という考え方です。統計学的な推計に基づく発想ですね。
(3)仕入のほうも区分できない場合
50/100
完全にお手上げな場合は、もうざっくり「半分」で良いです、という考え方です。課税売上高のうち半分が10%、もう半分が8%、ということになります。
売上の特例計算が使える期間
以上の特例は使える期間が決まっていて、平成31年10月1日から4年間、となっています。
仕入税額の計算の特例
こちらは仕入が混じっていて分けられない場合です。こちらも、特例計算の対象となるのは、基準期間における課税売上高(消費税が課税される売上高)が5,000万円以下の中小事業者です。
仕入についても、特例の使用にあたって、特に届出したり承認を受ける必要はありません。
計算方法は、課税仕入のうち、一定の割合を掛けたものを軽減税率の課税仕入にして良い、というものです。混じってしまって区分できないなら、簡便的に割合を掛けて求めてください、ということです。
その割合をどうするのか、というと、仕入の場合は次の2パターンがあります。
(1)売上のほうは区分できる卸売・小売事業者の場合
軽減税率対象項目の売上額 ÷ 売上総額
要は、売上の割合をそのまま仕入の割合として使う、という考え方です。
(2)(1)以外の事業者、売上のほうも区分できない場合
簡易課税制度(または準じた方法)を適用
要は、仕入の計算については、元々簡易課税制度があるのだから、そちらを使ってください、という考え方です。
仕入の特例計算が使える期間
以上の特例は使える期間が決まっていて、平成31年10月1日から1年間、となっています。売上の場合の4年よりも短いので、注意が必要です。
「困難」の判断基準
ところで、売上にしろ仕入にしろ、区分することが「困難」の判断基準というのがありません。つまり、納税者が「困難です」と言えば、それまでです。ということは、結果的に有利な方を選択できてしまう、と解釈できます。売上計算であれば、税額が少なくなる方を、仕入税額計算であれば、控除が多くなる方を選べます。
ただし、簡易課税制度は事前届出が必要ですし、選択することが出来ないので、そこについてはルール通りの運用になります。また、売上についても去年は困難ではなく、今年は困難でした、とかちょっと矛盾するような使い方も無理があるでしょう。
いずれにしろ4年間(仕入は1年間)のお目こぼしという感じでしょうか。中小事業者であってもしっかり軽減税率に対応できるように、体制を整えていくことが最終的には必要ということです。
以上、軽減税率スタート!中小事業者向けの計算の特例について分かりやすく解説、という話題でした。消費税の軽減税率については、こちらの特例もそうですが、いろいろ制度矛盾を感じない訳ではありません。走りながら調整していく、という感じになるのでしょう。納税者としては混乱が絶えませんが・・・消費税について勉強してみたい、という方はこちらの書籍がお勧めです。