アパレル業界が昨今非常に厳しいと言われています。経済産業省の統計など見ましても、繊維製品の製造がダウントレンドですし、百貨店売上高の統計でも衣料品の販売はダウントレンドです。このような情報を見ますと完全に斜陽産業という印象になります。
ですが衣料品は毎日の生活に必要なものですし、おしゃれとか自己主張という面もあり、全部が全部ダメではないはずです。では、どういうものが今後当たりそうなのか、素人考えですが、考察してみました。
目次
アパレルは二極化する
衣料品を積極的に買いそうな世代は10代から60代前半くらいまで、でしょうか。いわゆる働き盛り世代ということなのですが、この世代では所得の二極化が進んでいると言います。所得の多い世帯はなおさら多くなり、逆に少ない世帯はなおさら少なくなる、という訳です。まさに、金持ちはより金持ちに、貧乏はより貧乏に、という時代です。
これはトマ・ピケティが言うまでもなく、資本主義と人の欲を前提にすれば、ある意味当然の成り行きです。さらにお金がお金を産む指数関数的成長の効果もあり、時間の経過によりなおさらこの差が開いていくでしょう。
中間層を狙ったマーケティングは失敗する
そうなると行く着く先は「中間層の喪失」です。真ん中くらいの所得の人の少数が金持ちグループに移行し、大多数は貧乏グループに移行していきます。この結果、中間層を狙ったマーケティングは失敗に終わる公算が高くなります。先日アメリカでデパートの「シアーズ」が破産しましたが、まさにそういうことです。
「シアーズ」はアメリカで何回も行きましたが、中間層向けのアパレルを扱った典型的な店でした。ここで買い物をしていた層は二極化によってそもそも対象顧客の人口が減るとともに、残った人口も多くはネットに移行してしまい、誰も買わなくなったのでしょう。
この所得の二極化から来るアパレルの二極化は当然の流れとしてやってきます。このため、中間層を狙った特徴のない大量生産による既製品はダウントレンドにならざるを得ません。繁華街の変哲のない衣料品店、ロードサイドの紳士服店、などは間違いなく危ないですし、ひょっとするとユニクロなども危ないかもしれません。
無店舗のネット販売であっても、事業者の飽和と中間層人口の減少により、客の取り合いになって利益率が下がり、破綻するところが出て来るでしょう。
3つの生き残り策
こうなりますと、アパレル業界の生き残り策は3つです。ひとつは、二極化の上の層である富裕層を狙うこと、もうひとつは下の層である低所得層を狙うことです。そしてその中位にある戦略が「マスカスタマイゼーション」です。
(1)富裕層向け
富裕層向けといってもエルメスやグッチのようなハイブランドを意味しません。そうではなくて、高付加価値でそれに見合う高価格を備えたアパレル製品です。「高かろう良かろう」ということです。最近の例で言えば、「カナダグース」があります。
Made in Canadaにこだわった高級ジャケットで、5万円〜10万円前後しますが、バカ売れの状態になっており、入荷・即完売と報じられています。個人的には持っておらず、使用した感想はありませんが、相当良いということです。
ぱっと見はユニクロのジャケットと何が違うの?という感じですが、「高機能で高価格」の典型例です。こういう「高機能で高価格」のアパレル製品を世界で発掘して日本に紹介すれば、非常に効率の良いビジネスになるはずです(ただしコピー商品偽物が出回らない前提ですが)。
(2)低所得層向け
低所得層へのアプローチは、「徹底的に低価格。でもリーズナブルな品質」です。「安かろう悪かろう」ではだれも買いませんので、品質や機能を犠牲にすることなく、どれだけ低価格にできるか、で勝負が決まります。
こちらの最近の例は、「ワークマンプラス」です。先日東京立川市のららぽーとに1号店が開店して大変な人気になっているそうです。作業服のワークマンがその機能性と低価格を維持しつつ、「おしゃれ」を付け加えた品揃えで打ち出してきました。これは低所得層を狙った戦略としては絶妙でしょう。低価格でもリーズナブルな品質で、さらにおしゃれを「プラス」した見事なアプローチです。
ただし、この戦略は大量生産の仕組みが裏付けとしてあって、はじめて実現するものです。もともとワークマンとしての大量生産の力や取引関係があって出来たのであって、規模が無ければ太刀打ちできない話です。
第3の生き残り戦略
アパレル事業者にとっての第3の生き残り戦略であり、今後最も重要となるのが「マスカスタマイゼーション」です。これは文字通り「マス=大量」に「カスタマイゼーション=個別化」する、ということで、アパレルにあっては個別注文の服を大量に生産することを意味しています。つまり、これまでのS/M/L/LLのような大雑把なサイズによる既製服の提供でなはなく、顧客個人の体のサイズに合わせた服を仕立てて売るということです。
古くからオーダー服はあった訳ですが、一般に作るほうも手間がかかり、結果として高価であるため、買う人も少ないというものだったと思います。ところが最近では、リーズナブルな価格でオーダー服を提供する事業者が出始めてきました。例えば、Zozotownがゾゾスーツを配布してスマホアプリで採寸し、スーツやジーンズ、シャツなどを個別注文で作るサービスを開始した例が有名です。また、下記のSuit yaのような規模の事業者でも手ごろな価格でのオーダースーツの提供を行っています。
「自分サイズ」の時代が到来
富裕層であれ、中間層であれ、低所得層であれ、結局はみんな自分の体型に合った服を着たいわけですから、本来的にマスカスタマイゼーションによってリーズナブルな価格で自分にぴったりの服を着る時代が来ることでしょう。服だけに限らず、靴や下着、パジャマ、靴下、メガネなどでさえ「自分サイズ」のものを身につける時代が来ます。
「自分サイズ」である事自体が付加価値となって販売単価を押し上げるはずですので、単なる価格競争とは趣の異なる競争になります。事業者としてはマスカスタマイゼーションの仕組みをバックエンドでいかに上手く構築できるか、またいったん構築した仕組みをいかにニーズの変化に順応して変えていけるか、が勝負の分かれ目になります。
以上、二極化によって中間層をあいまいに狙ったアパレル事業者は淘汰され、富裕層か低所得層をはっきりターゲットした商材またはマスカスタマイゼーションによる個別化製品が生き残るであろう、という話題でした。