【一般の方向け】現実的なインボイス制度のQ&A

2023年10月からインボイス制度が始まりまして、問い合わせをいただくことが多くなっております。そのうちいくつかピックアップして掲載致します。

なお国税庁の公式Q&Aは以下にあります。

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice_faq.htm

公式ですのでちゃんとしているのですが、ちゃんとし過ぎていて一般の方がリアルに疑問に思うことと少しずれているという感じもします。一般の方が疑問に思うことは以下のようなことです。

Q1: インボイスが無いと経費にできないのですか?

A1:この質問が本当に多いです。これはまったくの誤解で、インボイスの有無と経費にできるかどうかとは別の話です。

インボイスは「消費税」の計算をする際に支払った消費税の証拠として必要です。「法人税」や「所得税」などの経費にできるかどうかはこれまで同様に単に領収書・請求書・レシートがあるかどうか、が問題でそれがインボイス(適格請求書)であるかどうかは関係ないのです。

インボイスでなかったとしてもレシートがあれば経費にできますし、インボイスを発行できない事業者から請求書をもらっても経費にできます。



Q2: インボイスを発行できない外注先がいるのですが値引交渉しても良いですか?

A2: これもみなさん悩むところです。

その外注先が消費税を請求していたら(請求書に10%消費税が明示されていたら)、それは原則払う必要がないです。その外注先は多くの場合免税事業者で、消費税を納めていない事業者ですので、消費税を請求するのはおかしいからです。

ただし、稀に課税事業者なのに主義主張があってあえてインボイス制度に登録していない人もいます。この場合御社が消費税の一般(原則)計算をしているときは、支払った消費税の8割しか控除できないので、控除できない2割分を値引交渉しても良いのかなと思います。

御社が消費税の簡易課税を選択している場合や2割特例を使える場合は、御社に影響はないので、値引交渉する必要はありません。最終的にはその外注先との関係性において御社がご判断ください。

その外注者が消費税を明示的に請求していないときも上記と同様です。御社が消費税の簡易課税を選択している場合や2割特例を使える場合は、御社に影響はないので、値引交渉する必要はとくにありません。最終的にはその外注先との関係性において御社がご判断ください。

一律に10%値引交渉とかは矛盾がありますし、場合によっては新制度に「便乗」して値引き要請しているとして違法性を疑われるかもしれませんので、慎重にご対応されることをお勧めします。



Q3:インボイスが無くても良い場合はありますか?

A3: あります。上記の公式Q&Aに詳しく書いてありますが、よくある例としては3万円未満の交通機関(電車・バスなど)代と自販機で買うものです。これらはもともとレシートが無いのでインボイスも免除されていて無くても良いです。

これに対してタクシー代や駐車場代はインボイスが必要です。インボイスには発行相手の名称を書く必要があるのですが、タクシーや駐車場ではそれは無理なので簡易インボイスといって発行相手の名称が省略されたものでも良いことになっています。

また高速道路のETC代もインボイスが必要です。これまではETCカードが紐づいたクレジットカードの利用明細があれば良かったのですが、クレジットカードの利用明細だけではインボイスとして不十分なため追加のひと手間が必要になっています。

それは以下のETC利用照会サービスから1回だけ利用証明書をダウンロードして保存することです。利用の都度とか1年に1回とかではなくとにかく1回だけ入手して保存しておけば良いというちょっと変わった落としどころになっています。早めに一度やっておくと良いです。

ETC利用照会サービス

Q4: 3万円未満の費用でもインボイスが必要ですか?

A4:  消費税の仕入税額控除については最近まで3万円未満の費用なら請求書が無くても良いという特例制度がありました。が、これは令和5年9月末をもって廃止されています。今はそのような特例はありません。

ですが、代わりに1万円未満の費用ならインボイスが無くても良いという特例があります。ただし令和5年10⽉1⽇から令和11年9⽉30⽇までの期間が適⽤対象期間となっており、今のところ永続的なものではありません。

なので、この1万円未満少額特例の位置づけとしては、「しばらくはうっかりレシートをもらい忘れても大丈夫」な、いわばセーフティネットとしてご案内しています。ただしセーフティーネットとして機能するのはあくまで消費税だけで、現金払いのレシート類をもらっていなければそもそも費用(経費)にすることはできません。

要は、1万円未満だったとしてもレシート類は全件保管する!という習慣づけをいまのうちからした方が良いです。



Q5: インボイス制度に登録するとどんなコストがかかりますか?

A5: まず基本的に登録そのものにコストはかかりません。依頼できる税理士がいないのであれば、自分で税務署に出向いて用紙に記入、提出すれば無料で完了します。

ですが、後から主に2つのコストが発生します。①インボイスに登録すると課税事業者となって多くは消費税を納めるようになるのでその税コスト、②自分で消費税の申告書を作成する場合の自分の工数(手間)または税理士に作成依頼する場合の申告料、の2つです。

①のことを認識していない方がいるので注意しましょう。

②については自分で消費税の申告書を作成しようとする方が増える気がしており、以下の「シンプル経理ツール」プロ版4.1を準備しました。よろしければご活用ください。

Q6: インボイスの保管にはルールがありますか?

A6: ないです。これも電子帳簿保存法との混乱でよく間違われるポイントです。

電子帳簿保存法は令和6年1月1日から強制となる法律です。詳しくは以下に書きました。

大まかにいえば、売上5000万円以下の事業者の場合、次の3つのことをする必要があります。①文書管理規定を作って保存すること、②紙でもらった請求書等は紙のまま保管すること、③ネットからのダウンロードやメール添付で入手した請求書等はデータのまま保管すること(その際にファイル名を一定のルールで統一すること)、の3つです。

「電子」とあるので、紙でもらった請求書等もスキャンしてデータで保管が必要、と勘違される方もいますが、そうではないです。紙は紙のままで、データはデータのままで、というのが基本になります。

データ保存の際にファイル名を一定のルールで統一することは慣れるまで面倒ですが、慣れると検索しやすいですし、PDFを開かなくても中身が分かるので便利です。今すぐにこのやり方に準拠することをおすすめします。

インボイス制度と電子帳簿保存法とは直接関係なく別物です。インボイスについてもこれまでの請求書類と同様に電子帳簿保存法に準じた保存をするようにしましょう。