よく東京ビッグサイトなどの会場で開催される様々な業界の展示会というものがあります。特定の業界や分野に関係のある企業が出展して新製品や新サービスの紹介をしています。これは何のためにやっているのか?というと、当然自社製品・サービスの認知度を向上して、売上アップに繋げるためです。
大抵は各社の「マーケティング部門」が主導して出展し、集客します。自社のブースに立ち寄って興味を示したお客様と名刺交換をし、アンケートなどに回答してもらったりします。この名刺やアンケートが引き合い(リード。見込み客)です。
この記事では、このマーケティング部門の引き合い創出努力が有効だったのかどうか検証する方法について説明します。
目次
リード・クオリフィケーションとは
名刺やアンケートは回収して、今後の商談に発展しそうなものを絞り込みます。この絞込みのプロセスをマーケティング用語でリード・クオリフィケーションといいます。リード・クオリフィケーションによって商談の可能性が高いものがピックアップされて、「営業部門」へと転送されます。営業は転送されてきた商談の内容を確認して、続けてフォローするのか、またはキャンセルしてフォローしないのか、判断することになります。
リード・クオリフィケーションが営業効率を左右する
ここで重要になるのが、「リード・クオリフィケーションの質」です。質が良ければ、営業の効率がアップして次々に受注に結びつけることが出来るでしょう。一方、質が悪ければ、営業へゴミを送りつけているのと同じことになり、営業の効率を落とし、売上アップに繋がらないでしょう。
一般的にはマーケティング部門は、相当の手間隙コストをかけて「リード創出」し、また「リード・クオリフィケーション」している訳ですが、営業部門から見ると「ゴミしか来ない」「時間の無駄」ということが良くあります。結果としてマーケティング部門と営業部門は犬猿の仲となってしまいます。
<リード・クオリフィケーションの質の定量化
そうなりますと、「リード・クオリフィケーションの質」を定量的に捉えて、評価することが重要になりますが、この数値化をどうやったら良いのかというのが簡単なようで難しい問題です。
ぱっと思いつくのがCVR(コンバージョンレート)を計算して数値化することです。つまり、リードが何件創出されて、そのうち何件が商談になったのかで割り算をすれば、リードから商談へのCVRが出ます。同じように、そのうち何件が受注になったのかで割り算をすれば、リードから受注案件へのCVRが出ます。(または件数ではなく金額を使って計算することもあります)
自分の知る範囲では多くの場合、このCVRを計算して終わりです。目標に対して多かったとか少なかったとか、去年と比べて多かったとか、そういう単純な比較をして、偉い人にプレゼンしてなんとなく一件落着となります。
統計学を使ったアプローチ
ですが、CVRだけでは「リード・クオリフィケーションの質」を定量的に捉えて評価するという意味では、不十分です。本来はCVRを計算したら、今回の展示会について行った一連の施策やリード・クオリフィケーションにより、「有意な差があったかどうか」を検証するところまでやらないともったいないです。
「有意な差」というのは統計学の用語で、偶然ではなく間違いなく違いが生まれたかどうか、を示すものです。風邪薬の開発で言えば、臨床試験の結果、本当に風邪に効く薬であるといって売り出して良いかどうか、が重要です。そこで薬の投与により風邪の改善に「有意な差」があるかどうかを調べます。この調べる方法が「検定」です。
同じようにリード・クオリフィケーションの結果CVRに「有意な差」があるかどうかを「検定」して、有意な差を生じることが証明できれば、マーケティング部門は営業部門に対して自信をもって商談を転送できますし、営業も信頼してその商談をフォローすることでしょう。
「検定」のやり方
「検定」の理論は小難しいのですが、やり方は簡単です。忙しいビジネスパーソンは理論を知る必要はありません(もちろん勉強しても良いのですがすぐに忘れます)ので、やり方だけ覚えましょう。
検定にはいろいろありますが、今回は「T検定」(てぃーけんてい)を使います。T検定は平均値に有意な差があるかどうかを調べるツールです。その進め方は次のとおりです。
(1)まず創出したリードについて幾つかについては、リード・クオリフィケーションを行い、幾つかについてはリード・クオリフィケーションを行いません。これは、この2つのグループについて、リードから商談へのCVRとリードから受注へのCVRに有意な差が生じているかどうかを調べるためです。営業部門にはこのような違いがあることを知らせません。
(2)次にそれぞれのグループについて、商談になった場合は「1」ならなかった場合は「0」、同様に受注になった場合は「1」ならなかった場合は「0」として下図のエクセルのように整理します。この例ではサンプル数はそれぞれのグループについて20件とっていますが、全てのリードについて検査しても良いです。
(3)それぞれのCVRは平均を計算するだけですので、23行目のようになります。
(4)次にT検定ですが、エクセルには「T.TEST」という関数があるので、これを使います。面倒な計算は一切不要です。A24のセルに以下のように入れます。
=T.TEST(A3:A22,C3:C22,2,1)
同様にB24のセルに以下のように入れます。
=T.TEST(B3:B22,D3:D22,2,1)
(5)A24の計算の意味は、リード・クオリフィケーションのあり・なしで、商談のCVRに有意な差が生じているかどうかを検定せよ!という意味です。結果は図のとおり0.0492…となっています。この読み方にはルールがありまして、「0.05より小さかったら有意な差がある」と読みます。つまりこの例では「有意な差」あり、となります。なんでそうなのか?調べたい方は調べて頂ければと思いますが、統計学の英知によりそうなのだ!と割り切った方が良いです。
(6)同様にB24のほうを見ますと、こちらはリード・クオリフィケーションのあり・なしで、受注のCVRに有意な差が生じているかどうかを検定せよ!という意味です。結果は図のとおり0.1864…となっています。すなわち、0.05より大きいですから、「有意な差」なし、となります。
検定結果の検討
今回の検定結果から、マーケティング部門が創出したリードでリード・クオリフィケーションをすれば、リード・クオリフィケーションしないよりは「商談」にコンバージョンできる、と言えます。リード・クオリフィケーションには効果がありますので、自信をもって、「商談」を営業部門へ送り出せば良いでしょう。
ただ、現時点ではリード・クオリフィケーションが「受注」まで効果を及ぼしているとは言えません。こういったことから、リード・クオリフィケーションのやり方の改善、営業部門との連携方法の改善など、次の課題(施策)が見つかります。
もし「商談」へのコンバージョンについても有意な差が無いという検定結果になった場合には、マーケティング部門はリードの創出からクオリフィケーションまでの一連のプロセスについて再度点検して、改善を行う必要があります。
このように検定を使った統計学的なアプローチをすることにより、次のアクションがより鮮明化します。
まとめ
以上は統計学的に導かれた結論、ということになりますので、マーケティング部門・営業部門双方が納得しやすいですし、次の施策のための予算取りなど、偉い人へのプレゼンとしても効果的なものになります。
以上、リード・クオリフィケーションの努力が報われたかどうかの検定方法を分かりやすく解説、という話題でした。統計を使うとビジネスの様々な局面で役に立ちます。でもどうやったら良いか分からないよ、という場合にはご相談くださいませ。
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